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「久し振りだね?ここ来るの。」
「そうだな?もう最後かな?」
「何で?」
「改装するらしい。半年後から閉店だ。暫くは閉まるし、今とは違う。名残惜しいな?」
話しながら太陽は店員に声を掛けた。
「カレーライス二つと、カツサンドひとつ、後、アイスティーとアイスコーヒーお願いします。」
「あ、すみません。アイスティーをクリームソーダに変えて頂いていいですか?」
「はい、畏まりました。」
店員が離れて行くと、月子は嬉しそうに笑う。
「いいのか?クリームソーダで…。」
「うん。最後でしょ?でももう一度くらい来たいかな?」
「そうだな。閉店間際は混んでそうだし、ひと月前位にもう一度来よう。」
二人で窓の外を眺めた。
高い場所から見る景色は、あの頃の月子には壮大なご褒美だった。
同じく、やり繰りしている太陽には金銭的にも時間にも余裕はなく、ここへ連れてくる事で精一杯だった。
月子の大学卒業を祝い、懐かしい味を二人で味わった。
8月になり、また蝉の声が聴こえる季節が来た。
もうすぐ懐かしい人が消えた季節が来る。
「月子ー?何してる?行くぞー!」
余りに遅いので玄関で叫ぶ。
「はぁい!ごめん、エプロンが…見つかんなくて…。」
「エプロン?沢山あるんだろ?」
「だって、今日先生デビューだから、たいちゃんにもらったエプロンにしようとずっと思ってて、何処しまったか忘れちゃって…。」
えへへ、と笑って月子は誤魔化した。
「俺がプレゼントしたの4月だぞ?とっくに使ってると思ってた。」
呆れた様に太陽は呟く。
「だって!先生デビューで使おうって決めてたんだもの!」
「言ってくれれば。エプロン位、いくらでもプレゼントするよ?補助デビューでも先生デビューでも…。」
「ほんと?」
「本当!ほら、鍵閉めるぞ。」
就職して3ヶ月を過ぎて、朝は二人で車で出勤。
変わらない光景だ。
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