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筆跡鑑定は、科捜研の『文書鑑定科』が担当する分野である。他には偽札鑑定も行なっているはずだ。何より犯人の動機を推理する『心理係』も、文書鑑定科の一部門である。
全てが文書鑑定科あての手がかり――。
(文書科って、忠岡さんが在籍する魔窟じゃないか……!)
徳憲は数奇な因縁を呪った。
文書鑑定科の管理官とは懇意に接しているが、心理係とは冒頭の理由で苦手なのだ。
「でも行くしかないのか? かつての詐欺事件について、聞き込みに……?」舌を打つ徳憲。「気乗りしないが……心理係にさえ顔を出さなければ大丈夫か?」
どうにか自分を奮い立たせた。
徳憲は一路、所轄を出て警視庁のある桜田門へ取って返す。
科捜研は警視庁本部庁舎に隣接する、警察総合庁舎の七階に居を構えているからだ。
「部下に行かせてもいいんだが、科捜研に顔が利くのは俺だしな……」
くれぐれも忠岡と対面しないよう留意しながら、徳憲はパトカーを転がした。
あたかも運命に吸い寄せられるように。
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