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「ああ、この家ですか……どうだったかなぁ」
しきりに首を傾げている。日に何十・何百件もの配達をするドライバーだから、いちいち受取人の顔など覚えている余裕はないのかも知れない。
「本当に思い出せませんか?」業を煮やす徳憲。「普段から日用品の配達を契約している家なので、何度か会っていると思うんですが」
「あー……俺は最近ここに入ったばかりなんで、面識ないですね。俺が入る前は先輩が配っていたと思いますけど」
「じゃあ先日の配達が初めての訪問だったんですか」
何とも間が悪い。
しびれを切らした徳憲は、もどかしげに一枚の写真を差し出した。
「受取人はこの方じゃありませんでしたか?」
写真には懸井悧恵のご尊顔がバストアップで写っている。二年前の詐欺事件で撮影された資料だったが、今とほぼ変わらない外見なので支障あるまい。
ドライバーは写真を至近距離でじっと眺めたまま、さらに首をひねった。
「うーん、何せ印鑑をもらう数秒間しか会っていませんからねぇ……けどまぁ、確かにこんな感じの、ヨボヨボのおばあさんだったような気はします」
「それは本当ですか?」
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