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1.初めての結婚詐欺
忠岡悲呂は腹黒い。
科学捜査研究所の心理係に勤める二〇代後半の女性研究員は、一見すると地味で冴えない干物女だが、そんな印象とは裏腹に激しい思い込みと独断専行で勝手に犯人を決め付けてしまう、非常に豪胆かつ危なっかしい烈女だった。
一つ間違えば、冤罪である。
前回はたまたま思い込みが的中したものの、物理的な証拠や根拠すらないまま心理学的見地から一方的に被疑者へ嘘発見器を仕掛ける勇み足は、徳憲の心に警鐘を鳴らした。
徳憲忠志は現在二九歳、今年で三十路を迎える警部補だ。所属は警視庁捜査一課。
自慢ではないが、敏腕と称されてしかるべき俊英だ。
高卒警官が現場の叩き上げを経て、二〇代で警部補にまで昇進した例は稀である。彼の地道な努力と愚直さが高く評価された結果と言えよう。
千里の道も一歩から。
一念岩をも通す。
プライベートをかなぐり捨てて、仕事一筋に生きてて来た。こつこつ現場百回は当たり前、足で稼ぐ泥臭い粘り強さが彼の身上である。
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