2.二件の詐欺被害

1/17
84人が本棚に入れています
本棚に追加
/65ページ

2.二件の詐欺被害

 皇居の南、桜田門から目と鼻の先にある敷地が、警視庁本部庁舎である。  徳憲が所属する捜査一課もここにあり、その隣にそびえるビルは科学捜査研究所が設けられた警察総合庁舎となっている。  徳憲は何はともあれ科捜研を目指した。七階のエレベーターを出ると、すぐ第一法医科が目に留まる。ここが受付窓口だ。白衣姿で事務に追われる所員へ、徳憲は来意をことづけた。  かつての詐欺事件に関して、筆跡鑑定を担当した研究員から詳細を聞ければ一石二鳥だろう。 「では文書鑑定科にお通り下さい。管理官が対応に当たって下さるそうです」 「管理官自らが?」  徳憲は望外の歓待に目を丸くした。  穂村憾十郎(ほむらかんじゅうろう)管理官とは別の事件で知り合ったのだが、妙に気に入られているようだ。  科捜研は総勢八〇名ほどの小さな所帯だ。法医科、化学科、物理科……と各科ごとに人員を分けると、一つの科につき一〇名も在籍していない少数精鋭となる。ゆえに彼らは忙しい。当時の担当者は手が離せず、管理官しか対応できないのかも知れない。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!