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箱庭のあなたへ
月のひかりは夜風をさらって、揺れる木々に昼の面影はなく。
こんな夜は、別れの場面に、きっと相応しい。そう思わせる、最後の夜。
「死なないで下さいよ」
ぽつり、呟かれた言葉は、内容のわりにはそっけなく響いた。それにセージは私の顔を見ない。故意に逸らしているというのでもなくて、単にその言葉がひとりごとのようなものだったからだろうと思う。
だけど私は、言葉を返す。
「それは、わからないな」
なにしろ私を殺すとしたら、それは私以外の人間のすることだからね。他人のことなんてわからない。まあ十中八九死ぬだろうけれど、本当に死ぬかどうかは、殺されてみるまではわからない。するとセージは、苦い顔をした。
「そういう時は、嘘でも、生きて帰ってくるって言って下さいよ」
「ああ、これはすまない」
でも、君に嘘を吐くのはなんだか憚られるんだ。そう言おうとした瞬間、まあいいですけどね、とセージは肩をすくめた。どうせ先輩は嘘なんて吐くの苦手なんでしょうからって、ああ、やはり君は私のことを、よくわかっている。
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