箱庭のあなたへ

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その覚悟はとうにできていた筈だったけれど、しかしセージに会うと決心は揺らいだ。剣術学校時代から、親しくしてきた後輩だ。今も目を閉じると、映像になって思い出されるほど、鮮やかな日々。なにも知らなかったあの頃。 セージに会ったら、そんな頃を思い出し、死ぬのが少し、怖くなった。いや、違う。厳密に言えば、死ぬのが、ではなく、もう二度とセージに会えないということが。それがすごく悲しく、怖かったのだった。 そんな甘えた感情をまだ持ち合わせていたことに驚き、そしてなんだか笑えた。でもこんな感情になるのは、目の前にセージがいて、しかもここが剣術学校だからだということを、私は知っている。だからこそ、揺らぐ決心を、また固め直すこともできた。 甘えた世界。今思えば、ここは楽園で、箱庭だった。世の中の本当の厳しさなんて、学校ではわからなかった。知らなかった。 目を背けることが、暗黙のうちに、許されていた。
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