箱庭のあなたへ

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それは違う。 行かないでと言われても、やめることはできない。それを君はまだ知らない―――それでいい。 そんな悲しい事実は、まだ知らなくていい。いずれ嫌でも知ってゆくのだから。またいつかの、大事な人の死とともに。 「私も君と話すのは、楽しみのひとつだったよ」 夜風の連れてきた雲が、月を隠し、ひかりは翳る。辺りはますます暗くなり、それに紛れてセージは一筋の涙を零した。 きっと見えていないと思ったのだろう。しかし私には、それが見えた。 死ねば、どうなるのか。それは私にもわからない。ただきっと自分自身がなかったことになってしまうのだろうと言うことはわかった。私がいなくとも、世界は廻る。 私がいなくとも、セージの世界は動いてゆく。私とセージの過ごしていたこのひとときの時間、その穴もいつか他の誰かが埋める。私以外の人間と話すことを、いつかセージは楽しみに思うようになる。 その知らない誰かを想像するだけで、胸が灼けるほど痛んだ。
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