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そんな彼女が選んだ最終手段は婚活パーティーであった。いくらなんでも自分と同じ様な結婚できない同士ならどうにかなるだろう。こんな安い打算が彼女にはあった。だが、現実はそう甘くは無い。20代のイケメンと席を同じくしても選ばれるはずが無い、30代を選んでも似たような感じであった。そこで彼女が考えたのは40代のもう後がないと思われる男を引っ掛ける事であった。自分と同じ様に選ばれなかった男なら余り物同士で上手く行くはずだ。そんな事を思いながら今回の婚活パーティーに望むのだった。今回席を同じくしたのは顔はそこそこの40代の生物学者であった。胸につけてある紹介カードを見た瞬間から狙っていた獲物であった。40代と言う事もありライバルの女が群がる事はない。それを狙ってフリータイムと言う各自好きな相手と話が出来る時間になるなり即彼の元に駆け寄った。
「あの、少しお話しませんか」
これまでならこの時点で優しい口調ながら嫌な顔で「あ…… すいません」と逃げられるのだが今回は違っていた。
「ええ、結構ですよ」
生物学者は微笑み返しながら答えた。彼女はこれをみて「いける」と心の中でガッツポーズをした。数分間他愛の無い話をするが生物学者の笑顔は崩れなかった。やった好感触! 今回こそは行けると言う勝利の気分になっていた。
「ところで、何故に人間は動物を可愛がるのかご存知でしょうか」
生まれてこの方考えたことが無い質問であったが、無難な答えを考える事にした。
「さぁ…… 可愛いからですか?」
「正解です。それは保護欲から来るものです。可愛いものは守りたくなるじゃあないですか」
「はぁ……」
「ライオンやトラだって幼少期は可愛く感じるじゃないですか。これだけで保護欲の対象になると言えます」
「あたし動物園に行くのも好きで赤ちゃんとかの初公開とかに目が無いんですよ」
実際は動物園の臭いが苦手で殆ど行った事無いのだがそこは話を合わせておくことにした。
「ライオンやトラは成長すると逆に怖くなりますよね、それは保護欲の対象から外れても行きていけるようになった証明と言えます」
「可愛くなくても生きていけるようになったってことですよね」
「そう、自分で狩りをする力を得た訳です」
「チワワやヨークシャテリアなんかは成長しても可愛いですよね」
「そうです、彼らは自分で生きる力が無いから外見を可愛くして庇護を受けるための外見で生きていくと言う進化を遂げたと言えます」
「はぁ……」
鹿女亜希はこの辺りから話が難しくなってきたことで理解したフリだけをして相槌だけは打っておく事にした。
「人間の女性はどうでしょうか。成長しても可愛いからこそ、周りの庇護したいと言う欲求からくるサポートがあるからこそ無力になる出産や育児も出来ると言えます」
「はぁ……」
「あなたは……」
生物学者は鹿女亜希の顔をじっと見つめた。生まれてこの方顔をじっと見られるのは初めてだったので燃えるリンゴのように赤面した。
「その必要は無さそうですね」
そう言って生物学者はスッと席を立ち、部屋の隅で壁を背にして酒を呷り始めた。
結局、その日の婚活パーティーも失敗に終わった。終了後に生物学者の話の意味が分からかったので直接聞こうと思ったが既に生物学者はパーティー会場から去った後であった。仕方がないのでもう顔なじみになった婚活パーティーの常連者の友人に聞く事にした。
「それ、あんたは庇護の対象にないって物凄く遠回しに言われただけじゃない?」
「庇護したくないってどういうことよ」
「その…… 可愛くない?」
鹿目亜希は頭をハンマーで殴られるような衝撃を受けた。遠回しに言うなら「お前みたいな不細工とは無理」とはっきり言ってくれればいいものを。何故にこんなに遠回しに言ったのだろうか。遠回しに言えば傷つかないとでも思ったのか、不細工を遠回しに言いたかっただけなのか、いずれにせよ腹が立つと言うものであった。
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