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刑事、岡田俊行は同僚の猛山洋児と共に現場を訪れた。現場は中京都有数の歓楽街である名古屋文楽町(ぶんらくちょう)の中央の風俗街であった。ちなみに名前の由来は新宿歌舞伎町にあやかってつけられたものである。死体が見つかったのは風俗店とキャバクラを挟む道路の中央だった。死体は光沢のある黒いスーツに身を包み、髪は茶色の長髪、顔は美形でいかにもホストと言った感じ、一言で言えばチャラい男であった。体勢は仰向けで両手を上げたバンザイ姿で倒れていた。
死体の身元はすぐに判明した。落下した際に胸ポケットから財布が落ちると同時に免許証が飛び出しアスファルトの上を水平に滑って落ちたのである。
その免許証の写真と顔が一致した。免許証の名前は福部祐介(ふくべ ゆうすけ)34歳、住所はこの風俗街から程近いタワーマンション最上階である。
「自分、この人知ってます」
猛山洋児は死体の顔を見るなりこう言った。それを聞いて岡田俊行は「またか」と言う気分になった。この前の事件も死体の正体を知っていたのに黙っていた事があったせいか彼に対して軽い不信感を覚えていた。
「高校の同級生です。と、言っても高校1、2年生の時にクラス一緒で一言も話した事が無い関係でしたが」
「あのさぁ…… 桃花仁高校って呪われてるんじゃないの?」
「かもしれませんね」
岡田俊行はつい先週解決したばかりの事件を思い出していた。桃花仁高校内のグラウンドで全裸の変死体が発見されて、それを殺した犯人を逮捕したことを。
「この格好からしてホスト…… になってたのかな? 福部くん」
「みたいだな」
岡田俊行は死体の周りに散らばっている名刺を指さした。そこには「ホストクラブ、ビートM、店長、遊助」と書かれていた。名刺は免許証と共に財布から飛び出たものである。
「名前の漢字が違いますね、源氏名でしょうか」
「ああ、おそらくな」
そう言いながら二人は死体の周りを見回した。
「何だってこんな道路の真ん中で倒れてたんだ?」
「なんでも、空から降ってきたそうです」
「そんな馬鹿な」
「第一発見者は勿論の事、その周りにいた人たちも空から落ちてくるのを見たそうです」
「自殺か?」
「両脇にある風俗店とキャバクラの屋上には靴も遺書も無かったそうです」
「しかし、何で仰向けなんだ?」
「仰向けのまま落下したとしか言いようがないです」
「本当なんです! 信じて下さい!」
女性にしては低めの声が現場に響いた。二人はその声の主を見る。
「あれが第一発見者です」
「うわぁ……」
岡田俊行は鹿目亜希の顔を見て驚いた。これまで見てきた女性の中でもトップクラスの不細工の醜女だったからである。
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