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「彼女、なんだってこんなところ歩いてたんだ?」
「何でも婚活パーティーの帰りだったそうです。婚活パーティーやってたホテルがこの近くにあったみたいで」
「場所を考えて欲しいもんだな」
「こういう風俗街の近くには歓楽街があるもんですよ。歓楽街には結構格式高いホテルもあるもんです」
「それもそうか」
「初めに彼女に話を聞いた刑事が婚活パーティーをトンカツパーティーと聞き間違えて出荷の帰りかと思ったそうです」
「お前さぁ、失礼って言葉知ってるか?」
そう言う岡田俊行も頭の中ではトンカツパーティーと聞いたことで笑いを堪えていた。
二人は彼女に話を聞くことにした。
「本当に空から降ってきたんです!」
「はい、分かりましたから落ち着いて」
初動捜査の刑事が困惑しながら鹿目亜希の対応をしている。二人の姿を見るなりに聴取を入れ替わる。そして軽く岡田俊行に耳打ちをした。
「話がちょっと荒唐無稽でして……」
こう言う荒唐無稽な話を真面目に聞くのも刑事の役目だぞ。こう思いながら二人は鹿目亜希の目の前に立った。近くで見ると余計に不細工なのがよくわかった。ニキビと吹き出物に油の乗った頬。頬紅も汗と油でダラダラと垂れている。
「今回の担当刑事の岡田です」
「猛山です」
二人は軽く自己紹介をした。
「鹿目亜希と申します、また証言しないといけないんですか?」
「まぁ、そうなりますね」
その瞬間に鹿目亜希は涙目になった。先程まで泣きはらしていたせいか目が腫れぼったくなっていた。
「お辛いでしょうけど…… 軽くお話を聞かせていただくだけで結構ですので」
「はい…… 婚活パーティーの帰りのことでした」
鹿目亜希の滑舌が悪いせいか初動の刑事の言う通りに「トンカツパーティー」に聞こえる。猛山洋児は笑いを堪えた。岡田俊行も笑いを堪えていた。
「で、今回も婚活パーティーに失敗して、あても無くこの文楽町を歩いていたんです」
「真っ直ぐ帰ろうとは思わなかったんですか? 駅からも逆方向ですよね?」
「何? あたし疑われてるんですか」
鹿目亜希は岡田俊行の背広の両襟を掴んで詰め寄った。そしてゆっさゆっさと揺らしながら涙目の顔を近づけて来た。
「いえ、そういうわけでは」
「どうせ疑ってるんでしょ! あたし不細工だから疑ってるんでしょ!」
それを見て猛山洋児が慌てて鹿目亜希を引き剥がす。
「い、いえ…… そう言うわけでは」
岡田俊行は咳き込んでいた。女性とは思えない力で首を圧迫されたからであった。内心ではこの時点で公務執行妨害で逮捕引いてやりたい気持ちになっていた。
「もういいですからあった事だけを話して下さい」
「あたし、歩きながら考え事をしてました、どうして婚活が上手くいかないんだろうとか、そんな事を」
「左様ですか」
岡田俊行はもう早く終わらせたい気持ちになっていた。
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