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「それで、ここの前に来たときに「イケメンの男降ってこい!」みたいな事言ったんです。そうしたら本当に降ってきて…… あたし、どうしたらいいか分からずに…… 通報しようと思ったんですけど腰が抜けて…… その場から動けなくて」 聞いてみれば確かに荒唐無稽な話である。こんな風俗街の往来で「イケメンの男降ってこい!」と言うこと自体がそもそもありえない。34歳独身の刑事二人は「独身は拗らせたくないなぁ」と心から思う。 「通報はしなかったんですか?」 「はい…… 腰が抜けてその場から動けなくて」 「誰が通報を?」 岡田俊行に聞かれて猛山洋児はタブレットを開いた。 「えーっと、公衆電話から女性の声で通報が入ってます。彼女の前に落下してきた時刻から5分ぐらいは経過してますね」 「彼女はともかくとして他に通報する奴いなかったのか?」 「彼女の周りにも人はいたのですが、皆スマートフォンで死体の写真を撮っていたそうです」 「時代だねぇ…… 嘆かわしい」 「そのスマートフォンで撮った方がSNSにアップされた時間と彼女が証言する時間も一致します」 「良くない証明方法とは思うが彼女が嘘を言ってない事も証明されたな」 「これでアカウント停止しないSNSの業者もどうかしてますね」 「このアカウントにもうマスコミからの取材の申し込みが殺到してるんだろ?」 「よく分かりますね…… でも落ちてくる瞬間の動画じゃないから使えないそうです。それと死体は映しちゃいけないって暗黙のルールがあるみたいです」 「暗黙? 当然のルールだろうが」 「あの…… もう行ってもよろしいでしょうか」 鹿目亜希は二人に尋ねた。すっかり放ったらかしになっててその場から去りたかったのだろう。 「ああ、すいません。また後日何か聞くかもしれませんので連絡先を」 「もうさっきの刑事さんにいいました!」 「それは失礼しました、何か思い出した事があったら警察の方かこの携帯電話にご連絡下さい」 岡田俊行は自分の名刺を鹿目亜希に渡した。すると鹿目亜希は満面の笑みで名刺をポシェットにねじ込んだ。そして、こちらに一礼して現場から去っていった。 「何だったんだろうかあの笑顔は」 「多分ですけど、男性から名刺貰う事が初めてだったんじゃないでしょうかね?」 「うぁ……」 岡田俊行は引くような声を出した。事件以外ではもう関わりたくないとさえ思うようになっていた。
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