第2話

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第2話

 二年に進級した頃、大学の生体材料化学の授業を取った。分野的に興味があったのもあるが、担当教員が優しいので単位が取りやすいという噂があったからだ。 「今日は名前が書いてあるところに座ってもらえますか」  教室に入ると既に先生が居て、教卓に置いてある座席表を示した。金の鎖が付いている金縁の眼鏡を掛けた、七三分けで生え際に白髪が何本か見えるくらいの年齢の男だった。背は一八〇くらいでどちらかというと細身、水色のシャツに茶色のネクタイ、その上から白衣を羽織っている。学内の教員の中では一番きちんとした格好をしていて、真面目で誠実そうに見えた。顔も結構整っていて悪くないし、若い頃はモテたのではないかと思う。まあ、大学教授という肩書きを考えたら、今の方がモテている可能性は高いが。  俺は指定された席に座って、授業が始まるのを待った。初回から代返でやり過ごそうとしていた奴が居たのか、慌てて友達に携帯で連絡していたけれど。そんないい加減な奴は好きではないので、ざまあみろと思う。俺にとっては、貴重な金で通っている大学の大事な授業なのだ。  そういう貧しさを知らない奴とは考え方が合わないので、高校までは適当に合わせていたものの、大学では友人関係が学校生活に支障を来すことは無いので、友人らしい友人は作らなかった。 「席を指定してすみませんでした。皆さんの名前を覚えたくて、毎年初回の授業だけ指定させて頂いています」  代返考えるような不真面目な学生に謝る必要はないと思うが、先生はそう一言添えて出欠を取った。
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