第1話

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 高校の頃だったか、苦しみに耐えかねた俺は両親に打ち明けた。両親は驚いてはいたがあっさりしたもので、「彼氏ができたら紹介してくれよ」と父は微笑んだ。子供の中で唯一血の繋がらない子供だというのに、そんな違いを感じさせないほど優しい父に、俺は救われていた。  大学の授業を終えた後は、居酒屋で閉店まで働いた。奨学金だけでは足りない寮費や生活費を稼ぐためだが、賄いが出るので一食浮くのが一番の決め手だった。二番目はバイト先が歓楽街に近かったことだけれど。交通費が浮くので、遊びにもバーで飲む一杯の酒代しかお金が掛からなかった。  そう、俺は極度に疲れていない限りは、バイトの後夜の街に出掛けたのだ。毎夜違う男とベッドを共にし、今まで抑圧されてきたせいと言うには羽根を伸ばし過ぎだというくらい快楽を貪るような生活。勿論貧乏学生なのでホテル代を持ってくれる相手でないといけなかったから、誰も捕まらない日もあったけれど。  ゲイ界隈の人気としては、遺伝子上の父親がカナダ人で、少し一般的な日本人とは雰囲気が違うという点があるにせよ――人生でハーフだと言われたことがないくらいには日本人顔だが――、多少の筋肉はあるけど痩せ型で背も一七〇ちょっとの俺は、あまり需要は高くなかったと思う。しかしタチの需要自体は高いので、若い男なら誰でもいいというオジサンなら多少相手を選ぶ余裕くらいはあった。  自分個人としてはバリタチというよりはタチ寄りのリバだったが、ネコに回る機会は数えるほどしかなかったので、界隈では俺のことをタチとして見ていたと思う。  しかしこの爛れた生活が一年ほど経った頃、俺はこの日々が虚しいものであると気付き始めた。大学とバイト、そして夜の生活。歓楽街では派手に遊んでいるように見えて、後腐れも無く問題も起こしていない堅実な相手を選んでいたし、表ではとても地味で真面目な大学生であり続けていた。  この繰り返す日々が、つまらないものだと思いたくなくて、目を背け日々を過ごしていた。それが、一瞬で変わるような出来事が起こったのは、二年の晩夏の頃だった。
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