第2話

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「初めまして、私は鳥海芳慈(とりみよしじ)と言います。生体材料化学は私の専門分野なので、皆さんに教授することのできる知識は多いと思います。疑問に思うことは何でも構いませんから、遠慮なく質問してください」  と、学内で一番頭が悪そうな金髪の男が「はい」と手を挙げた。鳥海先生は座席表を手に取る。 「えっと……坂上君、何でしょう」 「先生って結婚してるんですかー?」  それなりに偏差値の高い大学のはずだが、こういう奴も中には混ざっているんだなと思わず溜息が零れる。 「いえ、未婚です」 「じゃあ、彼女はー?」 「交際相手……ですか? 残念ながら、しばらく御縁がないですね」  そう言って苦笑する鳥海先生に、坂上という学生は口を開けて馬鹿にするように笑った。こういう下らないことを面白いと思っている奴を見ると虫唾が走る。先生もこんな馬鹿の質問に真面目に答えなくていいのに、と苛立ちを覚えた。  その後は誰も続く者がいなかったお陰で普通に授業に移行したが、すぐに坂上を含む半分近い学生は夢の中に旅立った。俺はテストとレポート提出が必要な授業と知っていたから、ノートに板書や重要そうなポイントをメモした。  授業が終わる頃には、窓の外から西日が差していた。日差しが目に染みて、目を擦りながら席を立つ。一日の最後の授業だったので学校を後にし、その足でバイト先に向かった。  春は新歓コンパが社会人も学生もあって、連日予約が入っていて忙しい。飲み慣れていないから店内に一つしかない男性用個室トイレに籠城されることもしばしば。酔っ払ったおっさんにクレームつけられたり、女に逆ナンされたり、面倒なことも多かった。疲れてバイトの後のお楽しみも足が遠退く、そんな日々を過ごして初夏を迎えた。  夏休み前にテストとレポート提出があったのだが、テストを無事終えた後バイト六連勤という地獄があったせいでレポート提出を忘れてしまっていた。慌てて徹夜で仕上げて、前日までに研究室のポストに提出という話だったから、朝早く登校しておけばバレないだろうと先生の研究室に急いで向かった。
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