彼は手紙を愛しすぎた

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 僕は手紙が好きだ。  今はメールとかSNSとか、ネットを介したコミュニケーションばかりになっているけど、僕は昔から自分の手で手紙を書くのが好きだった。  時代遅れだの何だの言われることが多すぎて、今では逆に聞き流せるようになった。むしろ、手紙の良さがわからない奴らのことがかわいそうに思う程だ。  筆記具が違っても、紙が違っても、それぞれ書き味が違うし、読み味だって違って来る。それはディスプレイで読むデジタルな通信にはないものだ。  字だって一生懸命練習して、フォントの文字にも負けないくらいに読みやすい字を書けるようになった。  学生時代、ある女子にラブレターの代筆を頼まれ、僕は思った。  ──これ、商売に出来るんじゃないか?  思えば代筆屋なんてのは昔からある仕事だ。やりようによっては、手紙の代筆なんかも仕事に出来るんじゃなかろうか。ネット上での開業なら、割と容易だし。  僕はネットにサイトを立ち上げ、手紙の代筆の仕事を始めた。最初は泣かず飛ばずだったが、段々と口コミで仕事が増えて行った。  やはり手紙はいい。手で書かれた文字は、温かみがある。心が伝えられる。そんな反応が返って来ると、僕も嬉しくなって来る。片手間だった代筆の仕事は、いつの間にか本業と化していた。  心を伝える手紙。ネットの時代における、手書きの真心。そんなコピーと共に、いつしか僕は「手紙作家」と呼ばれるようになっていた。
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