(悪夢1)

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(悪夢1)

「助けて、助けて、開かないよ!」 廃墟で男の子が両手で扉を叩いていた。 「うわああん!おとうさん!おかあさん!開けてよ!」 鉄でできた白い扉。ドアノブを回す。カチャッと音がなる。そのまま押してみる。肩を扉に押し付けて、力一杯押してみる。今度は引いてみる。足を壁に押し付けて、力一杯、引いてみる。でも開かない。  キィー、と後ろの方から、扉が開く音がした。 「もう!開いて!開いてよ!あいつが来ちゃうよ!」 「あいつってだあれ?」 風の声がした。僕は、すごく嫌な気分になりながら、恐る恐る、後ろを見た。 黒い服を来た死神が宙に浮かんでいた。僕は、声も出せずに、震えていた。死神はこちらに近づいてくる。僕は、しゃがんで、頭を抱えて目を瞑った。  バクはサイの目で、死神を睨んだ。死神から黒いモヤが出てきて、バク飼いの手の上にのった。バク飼いは、それを、連れているバクに食わせてやる。  次に男の子が目を開けたとき、死神はお母さんの姿になった。男の子は何事もなかったように、お母さんと会話をした。舞台はいつのまにか、自宅のダイニングキッチンに変わっていた。  いつもより早い時間だけれど、男の子は目が覚めたようだ。バク飼いはバクに跨がって飛び立つ。いわゆる現世というやつでは、バク飼いと人間はお互いに見ることも触ることもできない。お互いにオバケみたいなものなのだ。  子どもはみんな心に生き物を飼っていて、大人になると、それが形になる。涙もろいライオンとか、周囲に目を光らせるフクロウとか、毒のないサソリとか。それぞれに性格も違うし、動物の種類はたくさんあるから、全く同じ動物を心に飼っている人は、けっこう少ない。もし、心の生き物が育たなければ-つまり、心が育つより先に肉体の寿命が尽きてしまったら、その子どもはバクと共に星空を旅することになる。  バクは、食べた悪夢を希望に変えて、その輝きで天の川を渡る。黄色の足は、希望の象徴。ピンクの鼻は、愛の象徴。ところどころ茶色い毛が混ざる白い毛皮は神の使いのよう。バク飼いは、バクのふわふわの白い毛皮を撫ぜた。この毛が全て白くなったら、バクは夢を流している天の川の一部になる。そうなったら僕は…。
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