(悪夢3)

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(悪夢3)

 巨大な影が私を責める 「遅刻するなんて悪い生徒だ。宿題の字が汚い。」 「練習が足りない。お母さんに報告させてもらうからな。」 5メートルほどの高さの影は、目と口以外はしまい込んで、私を睨み、怒鳴り続ける。すぐ向こうには、お母さんとお父さんがテーブルをはさんで向かい合っていた。 「まったく、どうしてあの子はああなのかしら」 「まったく、困ったものだなあ」 「学校の先生に報告しましょう」 「習い事の先生に強く叱ってもらおう」 女の子は、もうどうしたらいいのかわからなくって、右をみた。先生と習い事の先生が私の悪口を言っている。左をみた。お父さんとお母さんも私の悪口を言っている。  バクはフカフカの白と黒のしっぽでお母さんを撫ぜた。次の瞬間、お母さんが倒れた。女の子は駆け寄った。 「お母さん、大丈夫!?」 学校の先生が女の子の肩に手を置いた・ 「お母さんの心配をして、本当に優しい子だねえ」 習い事の先生も言った。 「優香ちゃんはいつも真面目で、お手本みたいねえ」 そのあと、ふっと風が吹いた。私はタンポポの綿毛が飛び散る緑の丘にいた。 夢の中でオバケが取り憑くということがある。オバケは想像力の結晶だから、最も美味しい、ごちそうだ。  こちらは、オバケの夢ならぜひもらいたい。夢のもつエネルギーが、そのまま星の輝きとなるから。夢は熱量。単位はカロリーだ。悪夢を見ているときの感情のアップダウンを見れば、悪夢がどれほどのカロリーをもっているか、想像がつくだろう。  逆に、穏やかで、現実にありそうな夢は、あまりエネルギーにならない。あまり僕らが大人に介入しないのは、大人はそういう、穏やかで謎めいた夢を見る人が多いからだ。大人の悪夢といえば、怒られる夢とか、怒る夢を見る人も多い。あれは残念ながら悪夢とは言えない。現実との帳尻をつけているだけだ。  大人の夢は、あまりにも現実に即していて面白くない。夢のカロリーは、創造性と感情の揺さぶりの掛け算だ。だから、子どもの夢が良い。でも、子どもたちが夜更かしをしていたときや、あまりにいい夢をみていたので邪魔したくないときは、大人の夢を食べることもある。大人の夢はいつも現実的だから、あまり力がたまらない。だからこれは、ボランティアのようなものなのだ
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