(悪夢4)

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(悪夢4)

 再現。そう、これは再現だ。つい二、三日前の、腹ただしい職場でのやりとり。俺は立場上、へらへら笑ってやったが、相手は失礼に失礼を重ねてくる。俺のはらわたは、ずっと煮えくり返っている。 「お前のモラルどうなってるんだよ。ああ?お前、自分が正しいことしてますって、死んだ婆ちゃんに胸はっていえんのか?人のこと傷つけて楽しいか?楽しいのか?楽しいって言えよ!俺は人の心を切り刻んで、自分を正当かするのが大好きな変態なんですっ言えよ!」 ハゲ田は無機質な顔でこちらを見ている。 「おら、言えよ!てめえが傷つけた人の分、ちゃんと、どういう意図だったのか説明しろよ。間違ったことを言ったことすら認めることもできない、幼稚な人間なんですって。それが偉そうにのさばって、謝ることもできない、幼稚園児気取りで許されるって思ってましたって言えよ!」 ハゲ田は無機質な顔でこちらを見ている。 「失礼だって?失礼なのはあんただよ!自分棚上げにしやがって!お前なんてなあ、みんなのうらみで包丁突き立てられて、悶え苦しめ、ハゲが!」  憎きあいつを怒っても僕の心は落ち着かなくて、罵倒して、泣いて、怒って、泣いて怒鳴って、泣いて叱って。朝起きると、昨日のことが蘇ってきたようで、恐ろしかった。また同じようなことが起きるのではないかと怖くなった。でも、もし、そうなったら、夢でやったように怒ってやればいい。そう、思った。  僕は手のひらの黒いモヤをバクに食わせてやる。  僕はバク飼い。バクの背中に乗って、星空を駆ける。星が鈴虫のように鳴いてみせる。星は、夢を照らす懐中電灯。君を照らしたり、他の子を照らしたりする。  天の川で船に乗る。キラキラと光る水面には、みんなの夢で溢れている。この川は、子どもたちの夢でできている。バクが食べた夢は、天の川に流れてアノニマスの無意識にたどり着く。つまり、子供たちのみた夢はそのまま、人間全ての夢となり、無意識に閉じ込められるのだ。  何十年かバク飼いを続けていくと、バクの身体は、ふかふかの、真っ白の、穢れ無きものになる。そうなったら僕は十分に大きくなったバクと共に輪廻の輪に還る。僕の心が育てた生き物がたくさんの人を悪夢から救った栄誉として、また穢れなき魂として、創造の雫を頂けるのだ。  昼になれば陽の光に照らされて、星は消えてしまう。おはよう、僕の大好きな子どもたち。静かな夜が終わって活動の時間が始まる。子どもたちは、太陽の光に照らされて夢を追いかける。暖かい陽の光が肉体に力を与え、夢を実現させるのだ。  昼が終わると、夜の風が吹いて、空が群青に染まる。それは、夢を渡るバク飼いの世界。今日会う子どもたちは、どんなに想像力に溢れた夢をみているのか、会うのが楽しみだ。  そうそう、夢をみていると、ごくたまに、友人にこれは夢だよって言われることがあると思う。それはじつは、友人の姿を借りたバク飼いなのだ。バク飼いが、「ここから先は、とりかえっこしたバクの見せる夢ですよ」って、案内してるんだ。また会えるといいね。
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