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と――
東の空が、急速に明るくなった。
「きゃあ大変。夜が明ける!」
珠玉は慌ててぴょこんと木の陰へと飛び込んだ。
「見るんじゃないよ。見たら殺ーす!」
「けけけっ、誰が見るか、千年経ってもお子ちゃまが」
「キーッ。見たのね。絶対見たんだ。蛇をけしかけてやるから!」
やがて日輪が東の空に姿を現わし、一日の始まりの輝きを放つと、月の魔力はかき消え、二人の姿は色白の美しい少女と、長身で目元の涼やかな美男に変わった。いや、戻ったと言うべきか。
これこそが、天帝は既に彼らを許している証し。
「ほうら。念のため、この地の衣装を用意してきて、正解だったろ」
蛙の時は、どんなに飛び跳ねても届かなかった金梔子を、桂はひょいと手を伸ばして取る。
「姫様はきっと、むしろ普通のをお喜びよ。沢山集めましょ」
金色の梔子の実は仙薬作りに必要だが、普通の物も山梔子と言って、貴重な生薬なのだ。
わが身を月に縛り、罪を償い続けるのは、嫦娥の意思だ。
そして二人は、どこまでも嫦娥と共にあって、薬を作り続けるつもりだ。
了
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