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二
そこは、見渡す限り砂と岩しか無い、寒々しく荒れ果てた沙漠だった。
こんな所で、食べものはどうするんだろう。住む所はあるのかしら。いいえ、何よりもまず、姫様を探さなくちゃ。
でも、本当にこんな所に姫様はいるんだろうか。まさか、別な月ってことは――?
だって、あのじじい、月へ送ってやるとは言ったけれど、姫様の元へとは言わなかった……ように思う。
実際のところ、あの時天帝が何を言ったのか、しかとしたことは分からないのだ。眩い光に包まれるにつれ、何も見えず、何も聞こえなくなって、気が付いたらもう、こんな所へ放り出されていたのだから。
やっぱり、くそじじいはまずかったかしら。
心細さに泣き出したい思いで、ぴょこぴょこと跳ねていく。
そう。珠玉の姿は、天帝に変えられた、白い毛玉のままだった。
ああ、仮に巡り会えたとしても、こんな姿で姫様、あたしのことを分かってくださるかしら。
と――
荒涼たるこの地には似合わぬ芳香が、鼻腔をくすぐった。
珠玉は後肢で立ち上がり、鼻をひくつかせる。
そして、方向を見定めるや、勢いよく駆け出した。
駆けるにつれて、香りは濃密になった。
沙漠の中に、まるで灯火のように仄かな明かりが見える。香りは、まさにそこから漂ってくるのであった。
それは、見上げるばかりの大木だった。
木犀が見事な花を咲かせ、妙なる香りを放っているのだ。
びっしりと咲き誇る満開の花は、まるで光を帯びているかのごとく銀色に輝き、そこだけ異世界のような美しさであった。
ああ、何てきれい……月には何にもないと聞いていたけど、こんな美しいものがあるなら少しは姫様の慰めになるかも知れないわね。
そう思って目を凝らすと、木の根方に、この芳しく美しい花とはまるで不釣り合いな、醜い大きな蟇蛙が、まるで人の子のように二本足で立っているのが目に入った。
丁度、今現在の珠玉と同じくらいの大きさがあり、ただの蛙とは到底思えない。
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