16人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
なんてこと。
やっぱり姫様は蛙にされてしまったの?
自分の姿が蛙にならなかった以上、そちらの願いは聞き届けられなかったのだろう。
慌てて駆け寄り、
(姫様!)
叫ぼうとしたものの、クウという情けのない音が漏れるばかり。
喋るどころか、吠えることも鳴くことさえも出来ないのが兎という生き物なのだ。
「お前、誰だ」
振り返り、胡乱な目をした蛙は、ひどいがらがら声で、突っ慳貪に言った。
珠玉は、思わずはっと身を引いた。
(あんたこそ誰よ!)
「クウクウ」
こいつは、姫様じゃない。姫様ならば、たといどんな姿になろうとも、こんな物言いはなさらないはずだもの。
(姫様は一体どこ?!)
「クウクウ」
「ああ、口が聞けないのか。兎だものな」
蛙は、ケケケと笑った。
「だが、思い出せ。俺たちは、仮にこの姿に封じられているだけだ。そいつを思い出しさえすれば、喋れるようになる。こんな姿でも、俺がこうして人語を話せているのが何よりの証だろ」
ああ、そうか。なるほどと思い、口をパクパクしては見るものの、やはりそう容易く言葉は戻らず、悔し涙が溢れる。
「ま、せいぜい頑張れよ。用がないなら、もう行け。俺は忙しいんだ」
言うや蛙はくるりと珠玉に背を向け、あろうことか美しい木犀の木に向かって、蛙の身には不似合いなほどの大斧を振り上げた。
「――何するのっ!」
「おっ、喋った」
蛙が振り向いて、またケケケと笑った。
「喋った、じゃないのよ。あんた、バカじゃない? 一体どういうつもりなのよ。頭おかしいの? 折角こんなにきれいに咲いてるものを切ろうとするなんて――」
蛙は、わざとらしく耳を塞ぎ、
「……教えてやるんじゃ無かったな。お前を兎に変えた天帝の気持ちが分かったよ」
と、大仰にため息をついた。
それから、ぎゃんぎゃんわめきたてる珠玉のことなど歯牙にも掛けず、大きな斧を軽々と振るうと、切り落とされた小枝がパラパラと何本も落ち、ことごとく蛙の手の中に収まった。
「こいつを挿して、殖やすのさ」
言いながら、今度は手際よく土を掘り返し始める。
「ま、確かに元は樵で、木を切るのが生業だったんだけど」
「樵……って、まさか下界の人間なの?! 一体どうして……」
下界の人間には人間の法があり、天帝が関与することなど滅多にない。輪廻の輪からも外されて、こんなところに流されているなど、尋常のことではない。
最初のコメントを投稿しよう!