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 なんてこと。  やっぱり姫様は蛙にされてしまったの?  自分の姿が蛙にならなかった以上、そちらの願いは聞き届けられなかったのだろう。  慌てて駆け寄り、 (姫様!)  叫ぼうとしたものの、クウという情けのない音が漏れるばかり。  喋るどころか、吠えることも鳴くことさえも出来ないのが兎という生き物なのだ。 「お前、誰だ」  振り返り、胡乱な目をした蛙は、ひどいがらがら声で、突っ慳貪に言った。  珠玉は、思わずはっと身を引いた。 (あんたこそ誰よ!) 「クウクウ」  こいつは、姫様じゃない。姫様ならば、たといどんな姿になろうとも、こんな物言いはなさらないはずだもの。 (姫様は一体どこ?!) 「クウクウ」 「ああ、口が聞けないのか。兎だものな」  蛙は、ケケケと笑った。 「だが、思い出せ。俺たちは、仮にこの姿に封じられているだけだ。そいつを思い出しさえすれば、喋れるようになる。こんな姿でも、俺がこうして人語を話せているのが何よりの証だろ」  ああ、そうか。なるほどと思い、口をパクパクしては見るものの、やはりそう容易く言葉は戻らず、悔し涙が溢れる。 「ま、せいぜい頑張れよ。用がないなら、もう行け。俺は忙しいんだ」  言うや蛙はくるりと珠玉に背を向け、あろうことか美しい木犀の木に向かって、蛙の身には不似合いなほどの大斧を振り上げた。 「――何するのっ!」 「おっ、喋った」  蛙が振り向いて、またケケケと笑った。 「喋った、じゃないのよ。あんた、バカじゃない? 一体どういうつもりなのよ。頭おかしいの? 折角こんなにきれいに咲いてるものを切ろうとするなんて――」  蛙は、わざとらしく耳を塞ぎ、 「……教えてやるんじゃ無かったな。お前を兎に変えた天帝の気持ちが分かったよ」  と、大仰にため息をついた。  それから、ぎゃんぎゃんわめきたてる珠玉のことなど歯牙にも掛けず、大きな斧を軽々と振るうと、切り落とされた小枝がパラパラと何本も落ち、ことごとく蛙の手の中に収まった。 「こいつを挿して、殖やすのさ」  言いながら、今度は手際よく土を掘り返し始める。 「ま、確かに元は樵で、木を切るのが生業だったんだけど」 「樵……って、まさか下界の人間なの?! 一体どうして……」  下界の人間には人間の法があり、天帝が関与することなど滅多にない。輪廻の輪からも外されて、こんなところに流されているなど、尋常のことではない。
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