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「ああ、玉や。お前まで、わたくしの過ちのために、このような姿に……」
「いいえ、いいえ。姫様は何にも悪くありませんわ。だって、沢山の人たちを救うためだったのですもの」
しかし、嫦娥は緩くかぶりを振り、
「いいえ。やはりわたくしが間違っていたのです。わたくしが天界の者で、持っているのが不老不死の仙薬と知った人間たちは、薬を独り占めにしようと、醜い争いを始めてしまったの。このままでは戦が起きて、病で死ぬより大勢の人が、命を落としてしまいかねなかったのです。わたくしは、本当に愚かでした」
さめざめと涙を零す。
「そんな! それは、姫様のお心が美しすぎたのですわ。相争う人間たちの方がどうかしてるのよ。それにあたしは、自分で望んで参ったのですもの。どうかあたしにも、仙薬作りを手伝わせて下さいまし」
「ありがとう」
嫦娥は、深く頷いた。
そして──
「不老不死だの万病に効くだなんて薬は、かえって人の心を惑わせてしまう。薬というものは、ちゃんとそれぞれの病や怪我に合わせて、適切に作らなければいけないものなのよ」
と、小さな手の白魚のような指を、ぐっと握りしめた。
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