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序
月が、煌々と地上を照らしている。
しっとりと湿り気を帯びた夜風には、月の雫が溶け込んでいるかのような香気があった。
と――
秋草の間で涼やかな美声を競っていた虫たちが、一斉になりをひそめる。
「ちょっ。なんで、か弱いあたしが踏み台よ。頭おかしいんじゃないの」
「この姿の時は、お前の方が重いし頑丈だ」
「ダメ。却下。断固拒否」
「うわっ、やめろバカこの……ぐえぇ」
一羽の白兎と一匹の大蛙が、時に高さを競い合うように飛び跳ね、時にど突き合い、時に折り重なって、やがて共倒れで地べたに転げ……
もし、この様を絵心、詩心のある人間が目にしたならば、愉快に遊び、仲良く喧嘩しているように映ったかも知れない――
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