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真新しいスリッパを足先に出されて、ローファーを脱ぐと足を突っ込んだ。パタパタと踵を鳴らしながら、玄関の前にあるドアを開けると、さっぱりしたキッチンとダイニングが目に飛び込んでくる。
男二人暮らしと疑いたくなるような片づけられた室内は太陽光で輝いて見える。
「座って。いま、紅茶淹れるね」
南野がテーブルを指でさしながら、キッチンに足を向ける。言われたがまま……明夏はテーブルに近づいて二つしかない椅子に腰をおろした。余計な家具は一切ない。生活に必要最低限な物資しかない家は、初めて見た気がする。
足元に鞄を置くと、気持ちがソワソワと落ち着かなくなる。ここで毎日、東雲と南野が暮らしているのだろうか。高校入学とともに引っ越したと南野が言っているくらいだ。一緒に暮らし始めて七か月弱くらい。
(え? 計算が合わなくないか?)
東雲と学校で出会って恋に落ちて同棲なら、入学と同時期になるはずがない。
(なら……もっと前から?)
疑問が増えてしまった。テーブルに顔を伏せると、聞こえないようにため息をついた。
「ごめん。体調……悪かった?」
「え? あ……ちがう。ちょっと不思議で。美南は勝手にライバルだと思ってたから」
「俺と西森君が? ライバル? 面白いこと言うね」
クスクスと本気でおかしそうに南野が笑う。テーブルに紅茶の入ったマグカップを置いて、対面に彼が座った。
(おかしい?)
学年トップの南野と二位の明夏。周りは必然とライバル関係に持ち込みたがるものだと思っていたけれど……違うのか。それにお互いの雰囲気だって似ている。
明夏は似非で、南野はホンモノ。比べれば、差は歴然だ。明夏があきらかに劣っている。
「俺、コーヒーが苦手で。家には紅茶しかないんだ。西森君は紅茶、大丈夫かな?」
「ああ、別に平気だけど」
「そっか。良かった。とう……、東雲先生はコーヒーが大好きで。俺が匂いすらも駄目だから、我慢させてて。すごく胸が痛いんだ」
「それ、惚気?」
「え? えええっ! ちがっ……違うよ。ただ我慢させてしまって申し訳なくて」
(だからそういうの……惚気じゃないなら何ていうの?)
イラっとする。
東雲が帰ってくるまで、南野と話が続くのか不安になる。純粋無垢な南野と、汚れ切った明夏では見ている世界が違う。惚気を惚気とは思わずに、素直に口にするような性格じゃない。
いら立つ気持ちを、熱い紅茶で押し流すと右手に見える二つのドアを見つめた。どっちかが東雲の部屋で、もう一つが南野の部屋なのだろう。
(ぼくが言えた義理じゃないけど……教師と生徒が同棲って、気持ちが悪い)
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