第二章

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「私は、ずっとこの世界に居たいと思っている。けれど、それが叶わない可能性だって充分にある訳。私は魔女として、魔女の子として、この世界に存在することが出来たということの証明をしないといけないの。そのために……」 「そのために……小説を書いてる、と?」  こくり。彼女は頷いた。 「……そんなことって、」  聞いたところで、どうすれば良いんだよ。  僕は――どうあるべきなんだよ。  彼女は、一冊の本を取り出した。 「それは……?」 「『パノプティコン』という小説よ。これも、飯塚真凜先生の書いた小説」  白いカバーに、『パノプティコン』と書かれたその本は、とても分厚かった。  この一冊を、母さんが書いたのか。  いったい何のために? どうやって? どのようにして? 「……この小説は、全世界監視システムに縛られた男女の恋愛ものとして描かれているわ」  恵は告げる。  さらに、彼女の話は続いていく。 「全世界監視システム『パノプティコン』に縛られた男女は、どのように行動するか? ということを念頭に置かれたこの作品を読んで、私はこの作品を書いている人はどんな素晴らしい人なんだろう、と思ったわ」 「いやいや、それは言い過ぎだって……。母さんはただの母さんだよ。それ以上でもそれ以下でもない」 「あなたにとってはそうかもしれない。でも、私にとっては違うの」  そうなのだろうか。  いや――そうなのかもしれない。  僕は、斜に構えていた態度を改めて、彼女の話を聞くことにした。 「私は、先生の小説は全部集めたつもり。この学校に揃っているのは、全部私の蔵書なの。だから、いつかは持ち帰らないといけないかも……と思っていたのだけれど、この際寄贈する手もありかな、と思っていたりするの。飯塚真凜先生の素晴らしさをもっと知って欲しいから。そのためにはどんな努力だって惜しまない」
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