7人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
ユンミ
病院に着くまで、彼女と少しだけ話す事が出来た。
信一「名前を聞いても良いかな?」
彼女「……ユンミ デス。ソン・ユンミ。」
信一「あ〜、ユンミさんね。僕は御手洗 信一です。27歳。
君の歳はお母さんが言ってたから知ってる。学生さんかな?」
ユンミ「ハイ、ニホンゴ ガッコウ デス。」
信一「あぁ、なるほど。日本語を勉強中なんだね。韓国の人だよね?
日本に来てどれ位たつの?」
ユンミ「ハイ カンコク。ロク ツキ マエ。」
信一「え!まだ半年前!そうなんだぁ。それにしては上手だね、日本語。」
ユンミ「アリガト ゴザマス。ミタラ サン ナニシテル。」
信一「あ、僕?ん〜音楽関係の仕事をしてる。」み・た・ら・い何だけどなァ〜心の会話。
ユンミ「オォ!ホント 二! オンガク シテル?」
信一「う~ん、あ!病院着いたよ。」
ユンミ「ハイ。」
ユンミは何か言いたそうだったが、信一は急かすように車を降り、病院の受付を探した。一通りのいきさつを説明すると、マスクをした医師が現れた。
医師「交通事故では無いのですか?」
胡散臭い顔で信一を見て言った。
信一「はい。車に当たって怪我したわけではありません。彼女が立ち上がろうとして転んだんです。」また最初から詳細説明をした。
医師「とにかく、彼女を診てみましょう。貴方は、ここで待ってて下さいね。」逃げるんじゃないぞ!と信一には聞こえた。
……今夜はゆっくりと風呂にでも入って、ツナマヨパスタをつまみにビールを飲干す計画が、まさに泡の如く消え去った。
あぁ、なんて夜だ。
所々電気が消えた病院のロビーは、信一の気持ちを映すように薄暗く、深い静けさに包まれていた。
しかし、突然大声がロビー内に響いた。
頭を抱えて座っていた信一は、転げ落ちそうになった。
ユンミ〜!ユンミ〜!母親が現れた。
信一はすっくと立ち上がると、深くお辞儀をした。
信一「あ、お母様。御手洗です。今回は、ご心配お掛けしました。今、娘さんは、治療中です。多分それ程時間は掛からないかと思います。車に接触しなくてほんとに大事に至らなくて……良かったと言うか、何と言うか……。」
段々自分でも何を言っているのか分からなくなって行った。
母親「貴方、で、どうなさるおつもり?」
信一「ヘ!?どうなさるおつもりって言われても……、交通事故ではありませんし、僕としても誠心誠意たいおう……」と言いかけた時、またもや大声で、
母親「あ!ユンミ!ユンミ!」
診察室のドアから、ユンミが顔を覗かせていた。
母親は飛びかからんばかりの勢いでユンミを抱きしめた。
ユンミ「イタイ ヨ!イタイ ヨ!」
ユンミは包帯が巻かれた右手首をかばった。
母親「身体は?身体は何とも無いの!頭とか大丈夫?」
ユンミ「ダイジョウブ ダヨ。ダイジョウブ。オバサン。」
信一「え!オバさん?!母親じゃ無いの?電話の声の人に違いないんだけど。」と心で会話していた。
最初のコメントを投稿しよう!