Goodアイデア

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ふと気付くと、午後7時を過ぎていた。 長時間ヘッドフォンをしていたせいで、耳が熱くて痛みを感じた。 2つ程、気になるユニットは有ったが、BAD POLICE程のインパクトは感じなかった。ヘッドフォンを外すと、強烈に空腹を感じた。 何を食べようか迷ったが、パスタだ! 近くに行きつけの店がある。 学生の頃から通っていた。 「いつも食堂」っていう名前の店だ。 メニューにはない、裏メニューを作ってくれる。 昨夜食べ損ねたツナマヨパスタだ。 この店で作り方を教わった。 もうイメージしただけでも口の中に唾液が溢れた。 信一「あ、オバさん!御手洗です。 いつものパスタ大盛でお願いします。 これから飛んでいきます! 宜しくです。」 たまに予告無しで店休する事があるので、確認を兼ねて注文した。 店に着くと直ぐに出て来たツナマヨパスタを、旨い!旨い!って独り言言いながら凄い勢いで頬張った。 すると急にすーっと、ある考えが浮かんで来た。 そうだ!これだ!思い出した。 頬張ったパスタを水で流し込んだ。 …BAD POLICEにキーボードを入れる! それをユンミに演らせる。 …加入とかでは無く、 アルバイトでいいし。 キーボードを入れた彼等の楽曲がどう変化するのか、確かめてみたかった。 ユンミの腕前は未知数だが、音に合せる位で充分だと思った。 それにユンミにはアルバイト料も支払える。 それもそれ程の金額でなくても良い。 セッションミュージシャンを使うと時給幾ら、ってな具合で冷汗が止まらなくなる。 そうだ!このアイデアだ。 我ながらGoodである。 信一は自画自賛しながら、ツナマヨパスタを、またたく間に完食していた。 深い感謝を込めて。 社に戻ったのは、午後8時前だった。 ちょっと遅いかなぁ、 と思いつつも連絡をしてみた。 信一「あ!ユンミさん?僕です。 御手洗 信一です。 遅くにすみません。手の方はどう?」 ユンミ「ユンミ デス。イタイ デス。シンイチ サマ。ピアノ ダメ。オーディション ダメ。」 信一「そっかぁ。駄目そうか。 全く弾けない? 実は、短期間だけど、アルバイト見つかりそうなんだけど。」 ユンミ「エ!ホント!」 信一「うん、まだ確定では無いけど。」 ユンミ「ア〜ァ、デモ、ダメ! エロエロ ダメ デス! ワタシ ガクセイ。 ダマシテ エロエロ ダメ。 オバサン ユウヨ!」 信一「え〜っ!違うよ!違うよ! そんなんじゃないよ! ユンミさん、ピアノのお仕事。 少しでも弾けるようになってからでも良いよ。 でも、まだ決まった訳じゃないから。」 ユンミ「ソウデスカ。ワカッタ デス。ピアノ ドコデ ヒク? ドコカ オミセ?」 信一「決まったら、会社のスタジオかな。もし見学したいんだったら、オバさんと来たら良いよ。慌てなくていいから、弾けるようになってからでいいよ。また連絡して。どうだろう?」 ユンミ「ワカッタ デス。 マタ デンワ スルデス。」 信一「ちなみに、ユンミさん、クラッシック系だったよね。楽譜読めるよね?」 ユンミ「ヨメナイ ヨ。オト キケバ ワカル。チョット ヒケバ ワカル。」 信一「そ、そうなんだぁ~!?」 ちと、まずいぞ!これは。 と心の会話。 ユンミ「シンイチ サマ。 ハグ ソウル。イツ アエル?」 信一「あっ!そうだ!そうだよね~! 頑張ってるよ~!会えると良いね~! さまじゃなくて、さんでいいよ~。」 忘れてた~~!と心の会話。 ユンミ「マタ デンワ スル デス。」 信一「待ってるよ~~。」 なるようにしかならないし! 信一は深呼吸して腹をくくった。 2年ぶりの新人ミュージシャンの応募締切日となった。 ネット応募128組 CD応募82組 すべて聞き込み、自分なりの感想を書いた。 ディレクター、統括、営業、役員、直ぐに聞けるように、また感想を読めるように細かく整理するのが大変な作業だ。 本当はプロデューサーがこんな事やらないのだが…、人手がいない…。 応募者には結果や感想を一切連絡しないが、連絡が行く応募者はスタジオライブ(所謂オーディション)を依頼する時だけだ。 信一は今回、BAD POLICEしか依頼しなかった。 他にはディレクターから1組の依頼があったので、2組のスタジオライブを行う事になる。 まずは明日14時からBAD POLICEのオーディションとなる。 信一は自分の事のように、緊張して来た。 オーディション当日、午前7時。 今日は、目覚ましの音でベッドに引き戻された。 いつもは冴えない頭と格闘しながら起きるのだが、雲ひとつないそのまま宇宙にでも飛び出せる程の晴々しさである。 BAD POLICE。 君達は一体どんな顔つきで、どんな姿勢で、どんなピッキングで、どんな歌声で音を紡いでくれるのだろう? しかし大きな期待は禁物だ。 他のスタッフの評価は散々なので、信一はきっと孤軍奮闘しなければならなくなるのは目に見えていた。 どう皆んなを説得するか? その事を具体的に考え始めていた。 昼休みになっても、食欲がわかない。 社内の自販機でブラックコーヒー缶を買い、デスクに戻った。 すると待っていたかのように、机の上の携帯電話が鳴った。ユンミだ。 信一「こんにちは、ユンミさん。連絡ありがとう。手の方はどうかな?」 ゆっくりと立て続けに聞いた。 昨夜連絡したばかりだったので、 何かあったのか緊張した。 ユンミ「ユンミ デス。コンニチハ。コレカラ シンイチ サン カイシャ イク。ナンジ イッタラ イイカ?」 信一「ユンミさん、すまないけど今日は忙しくて時間を取れそうにないんだ。 また、連絡くれるかな? え~と、いつが良いだろう? 明日は、もう一組のオーディションがあるし、明後日あたりはどうかな?」 ユンミ「ワカッタ ヨ。 シンイチ サン シゴト シテ。 ワタシ シンイチサン ノ カイシャ ミルダケ。 スグニ カエル ヨ。 モウ チカク イル。 ヒトリデ イケル ヨ。 バイバイ。アンニョン。」 信一「バイバイ、アンニョンって! ん~困ったなぁ!」 とすかさず受付の椎名さんから連絡があり3人が着いたので、控室に案内したとの事だった。 了解したついでに、ユンミの来社の事を説明し、チョットの間社内を案内してくれるように椎名さんに頼み込んだ。 そして、控室に向かった。
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