出会い

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出会い

大手音楽事務所MUでプロデューサー(PD)を勤める信一は焦っていた。 もう直ぐ新人オーディション募集締切が迫っていると言うのに、気持ちが乗る応募が全く無い。 焦る気持ちを抑えて、今日だけは少し早目に帰って気分を変えたいと思った。ここのところ社中泊が続いた心身の疲れを取るため、風呂にもゆっくり入りたかった。 車のハンドルを握った手で軽くリズムを刻みながらデモ曲を聞いていた。 「しかしヒドイもんだなあ。録音状態が最悪で聞くに堪えない。」ブツブツと信一は独り言を呟いた。 歩道には夏色に染まった女子やカップルで賑わっている。季節は夏真っ盛りでなのである。 クーラーを効かせた車の窓を少しだけ開けて、車内のよどみを外気で変えたかった。丁度、デジタルの時計が19:00に変わった。 そして、ハンドルを握り直してデモ曲の音量を下げた。 「もう今回は見送るか!今迄無理して押した連中が物になった試しも無いし・・・。」 信一はそう思いながらイジェクトボタンを押し、音を立てて出てきたCDを引抜き助手席に放った。 そこには何枚かのCDが転がっている。 その瞬間、街灯の光がいくつかのCDの円盤を等間隔で虹色に光らせ、まるでUFOの様に発光させていた。 残りの1枚をケースから用心深く取り出して細いCD挿入口ヘ滑り込ませた。音量を少しずつ上げてすぐ、んん〜と頭を掻きながら音量を下げた。 今日はネット応募を50曲、CD応募を20曲を聴きまくった。今日最後の曲は、ぐっすり寝れる様な良作に出会える希望を抱いた自分を責めた。 見慣れたコンビニの前を通り過ぎて、そろそろ家だなと思いながらCDを取出そうとした瞬間、人がヘッドライトの中に佇んでいた。 「あっ!!」 大声を張上げ、ブレーキペダルを満身の力で踏込んだ。 車は唸りとも悲鳴ともつかぬ音を響かせて止まった。 どれほど経ったのだろうか? 多分、数秒... 通行人が集まって来ている。 我に返った信一はシフトバーをパーキングモードにせわしく滑らせ、サイドブレーキを引上げ、けたたましくドアから飛出て、恐る恐る車の前方に近づき目をやった。 そこには座り込んで顔を両手で覆った女性らしき人が、鳴き声なのか、唸り声なのか何やら発していた。 「だ、大丈夫ですか?! 怪我は無いですか?!」 ぶつかった衝撃は感じなかったが、こればっかりは分からない。 信一は祈る様な気持で相手を凝視した。 女の人の様だがうつむいたまま、両手で顔を覆っている。 信一が覗きこもうとすると、彼女は震える両手を少しづつ顔から離した。
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