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事故?そして
彼女は、信一をキッと上目遣いに睨めつけながら膝に手を付き、勢い良く立ち上がろうとした。
しかし、恐怖で緊張していた筋肉が緩みヨロヨロと倒れ込んでしまった。
とその時、彼女は思わず右手を地面についてしまい手首を捻った。
「うっ!」
彼女は唸り声を上げてそのまま信一の方へ倒れ込んでしまった。
そして呪文の様に、
「ワタシノ ダイジナ ミギテ ガ」
「ワタシノ ダイジナ ミギテ ガ」
彼女は、左手で右手首を支えながら、抑揚の無い変な発音で、一言一言力強く2度繰り返した。
信一は咄嗟の事とはいえ、彼女の肩に腕を回して支えていた。
呆然としていた彼女は、何かを思い出したかのように信一に支えられたまま、強い口調で何やらまくし立て始めた。
何故だろう、信一には何を言っているのかサッパリ分からなかったが、怒っているのだけはハッキリと認識出来た。
信一は自分も焦ってしまっているのか、この子の言ってることがまるで理解出来ないのだ。
「あ~あ、ついに僕も精神崩壊してしまったのか?!長年うっ積して来た仕事のプレッシャー!全然芽が出ない担当ミュージシャン達!彼女いない歴27年!何1つとして癒し成分を持ち合わせていないじゃないか!どうしてこうなった!」
と信一は心の声に向き合っていると徐々に頭の霧が晴れる様に、所々で彼女が言い続けている言葉が日本語では無い事に気付き始めた。
「ねえ! き、君。チョット待ってくれないか。ねえ、君。」
そして、信一は少し涙目になった彼女の顔を覗き込みながら「君は外国の人?」「僕の言ってる意味解る?」とゆっくり丁寧に尋ねながら、むかし聞いた事のあるハングル語で間違いないと思った。
すると、彼女は言葉を止めた。そして今にも零れ落ちそうな涙で潤んだ大きな眼を信一に向けて、「チョット ダケ ワカル」
今迄の強い口調は消え、蚊の泣くような小さな声で呟いた。
「そうですか、何処か怪我は無い?
痛いとこは?」
彼女は右手首を指差して「ココ イタイ!」
「うっ!そこは自分で転んで痛めたとこだろ!」心で叫んだ。
彼女は再び右手首を指差して「ココ イタイ!」すねたような顔で言った。
それを見ていたカップルの通行人は、
「あの子泣いてない?」
「なんか痛そうだよ!」
「早く病院に連れてけよ!」
ヒソヒソながら、しっかり信一の耳には届いた。
直接ぶつかった訳じゃ無いけど、原因の一端は僕に有るよな、と思い
「病院で見て貰おうよ。近くに救急病院があったと思うから。どうかな?」と言いながら、彼女を支えながらゆっくりと立たせた。
身長は160cm位で赤いコンバースのスニーカーを履いていた。
彼女「チョット マテテ クダサイ」
彼女の眼から涙は乾いていたけれど、相変わらず、大きな眼に不安を残していた。
彼女は落としたバッグの中から携帯電話を取出して、顎のあたりで支えながら左手で持った携帯電話を開けた。
すると液晶の光が彼女の顔を鮮明に映し出した。
それを見ていた信一はギクリとした。色白で卵型の輪郭の中に大きな眼が程よく収まり、鼻筋は両目の中心からなだらかに鼻の頂まで無理の無い高さを保っている。小鼻は控え目ながらも鼻の頂をバランス良く支えていた。唇は血色を失い潤いこそ無いが、薄いピンク色で染まった可愛らしくも、意志の強さを覗える口角が上った唇をしていた。髪は肩迄のショートで艷やかな黒髪だった。
信一は思わず可愛い!僕のタイプ!と思ってしまった。
彼女はぎこち無く携帯電話をいじり、耳元へと運んだ。
彼女「ワタシ デス。・・・ハイ ワカッテ イルデス。クルマ ジコデス。イタイデス。」
信一「おいおい、何かヤバい方向へ向かってないか!」と思っていると、突然彼女が携帯電話を信一に手渡した。
ぎっくとしたが、両親だろうなぁ~、と思いながら受け取った。
信一「あ〜、もしもし。代わりました。わたくし、みたら…」
母親「貴方がはねたの!?私の大事な娘を!轢いたのね!どうしてくれるの!娘はまだ18なのよ!一体どう責任を取ってくれるの!」
信一は物凄い勢いで畳み掛けて来る母親の言葉を遮る事が出来ずにいた。
日本語で良かったと思っていると、いきなり聞いてきた。
母親「何とか言いなさいよ!」
信一「あ!よろしいでしょうか?わたくし、御手洗 信一と言う者です。お嬢さんが突然道路に飛び出して来られて…」
母親「跳ね飛ばしたのね!」
信一「跳ね飛ばしてません!」
母親「轢いたのね!」
信一「轢いてません!」
母親「じゃあ、どうしたの?」
信一「あのですね…」
詳しく説明しようとも思ったが、先ずは病院が先かな、とも思い、自分の連絡先を伝え病院に着いてから事の成行きを説明する事を約束して、彼女に携帯電話を返した。
その後、何かしら話していた様だが、直ぐに携帯電話を閉じた。
それからと言うもの安心したのか、彼女の大きな眼は穏やかな優しい大っきな眼に変わっていた。
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