彼女の手紙

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 彼女は毎年、お盆になると手紙を書く。それは、亡くなった元カノへのラブレター。送り火の時、一緒に燃やしてしまう。届いているのかもわからないのに。死んだ人間が手紙を読むなんて、私には信じられない。お盆になると、私はモヤモヤとした気持ちになる。そして、彼女と少しだけ距離を取った。わかっている。自分でも嫌になるほど、私は元カノへ嫉妬しているのだ。 「また書くの?」  ある時、彼女へ言ったことがある。ちょっとした嫌味のつもりだった。彼女はにっこりと微笑んで、 「話すことが、たくさんあるもの。」  そう答えた。逆にやきもきしてしまう。そんな私は彼女にどう映っているのだろう?気になるけど、怖くて聞けない。ペンを握る彼女を見る。手紙を書く彼女の横顔はいつも楽しそうだ。内容はわからない。聞きたくないから。私は、実家へ連絡を入れようと、ベランダへ出た。実家へは新幹線で3時間ぐらいかかる。お盆の間と言っても仕事があるので、三日ぐらいで帰ってくるが。電話を切ると、室内に戻る。 「今年も帰るのね。」 「・・・うん。たまには顔見せとかないと。」 「そう・・・。」  なぜか彼女は少し残念そうに手紙を見つめていた。これから封をするところらしい。可愛らしいシールで止めている。 「今回はどのくらい帰るの?」 「三日ぐらいかな。会社休めないし。」 「そっか。じゃあ、帰ってきたら出かけない?」 「いいけど、どこに?」 「内緒。」  彼女の顔は何故か、嬉しそうだった。何かとても楽しみにしているような雰囲気で、キッチンへと向かう。今日の夕飯は彼女の担当だ。メニューは何になるだろうかと、もう一度ベランダへと視線を向ける。夕日がビルの谷間へと沈んでいった。テーブルの上には、薄い桃色の封筒が置いてある。こんなもの、どうせ燃やしてしまうのに。暗い感情が、ゆっくりと腕を支配する。 「・・・私には言えないことでもあるのかな。」  今、一緒に暮らしているのは私なのに。彼女と付き合っているのは私なんだ。 「ねえ!見てみて、この卵、双子ちゃんなの!」  彼女の声に驚いて、手紙へと伸ばした腕を引っ込める。こっちの気も知らないで、彼女はとても明るい。なんだか、私だけが気にしているようだ。そう思うと、情けないし大人気ないし、恥ずかしさだけが残る。自己嫌悪に陥る私はキッチンへ向かった。彼女の肩に顔を埋める。 「あら、どうしたの?」 「・・・なんでもない。」  ボウルの中には、二つの黄身が並んでいた。フライパンにはまだケチャップの混ざっていないチキンライスが温まっている。 「ケチャップ入れないの?」 「・・・あ。」  えへへと笑う彼女の顔に私の気持ちは少しだけ軽くなった。料理が完成するまで、私は彼女に甘えることにする。顔はできるだけ合わせないようにして。
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