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切れた息を整えながら辺りを見渡す。
行くあてもなく衝動に任せるままに走ってきた。
「ここはどこだろう?」
相手がいる訳でもないし、そうこぼした独り言は暗闇の中に溶けていった。
気がつけば周りは既に真っ暗で近くの街灯と月の明かりだけが頼りになっていた。
「どの道から来たのかも暗くてわかんないし」
答えは帰って来ない。そう分かっていても言わずにはいられなかった。
そうしなければ恐怖や不安に飲み込まれそうになるからだ。
「とりあえずどこか人の居そうな所まで適当に歩いてみよう。戻り方もわかんないし進むまでだ」
そう1人で決意すると何処からか音が聞こえてきた。
「なんだろう、とりあえず行ってみるか」
そうして音のする方に足を運んだ。
辿り着いた所は公園だった。
「誰かいるのかな?」
そうして公園の中に入っていった。
中は街灯の灯りはあったがそれでも暗くて周りは良く見えなかった。
聞き間違えたかな?そう思って周りを見渡してみるとベンチに誰かが座っているのが見えた。
近づいていくとギターの音と綺麗な歌声が聞こえてきた。
よく姿を見るとベンチに座って弾き語りをしている女性がいた。
僕は息を呑んだ。
その光景があまりに美しかったからだ。
少しくすんだ色をした金髪に整った顔立ち。
長く使っているであろう傷が多いギターを持ち。
行くあてのない感情を強く、熱く、激しくギターにぶつけているように見えた。
感情の昂を表すように宙には汗が弾け、ギターは力強く音を掻き鳴らしていた。
その時の彼女からは美しさと気高さが覗き見えていて僕が出会ってきた誰よりも綺麗で格好よく見えた。
そんな彼女をより魅力的にするかのように月明かりがスポットライトのように彼女の背後で彼女だけを照らすように輝いて神秘的な光景を作った。
僕は1歩も動けなくて、呼吸すら忘れる程に彼女に夢中になっていた。
演奏が終わったのか彼女はギターを弾くのをやめて目を閉じ余韻に浸っていた。その姿もまた絵になった。
彼女は満足したのか目を開き、周りを見渡して僕の姿を発見するとみるみると顔を赤くしてギターで顔を隠した。
「お見苦しいものをお見せしてしまいました。すみません。」
彼女は小さな声でそう呟いた。
声を掛けられた事に動揺してしまった僕は何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
歌声が綺麗ですね、ギターカッコイイですね、歌が上手いですねなど感想なんか沢山あったのに僕は、
「月が綺麗ですね」
何て言ってしまった。
言った後に取り繕うように
「いやぁ今日の月が綺麗だなーと思って、別に変な意味ではないんですよ、確かに好きなんですけど」
早口な上に自分で何を言っているのかもわからなくなってしまった。
すると彼女は耳まで顔を真っ赤にしたまますごい速さで走っていった。
途中で転ばないか心配に思ったが僕は僕で死にたくなった。
こうして僕は名前も知らない彼女のファンになったのだがその事を伝える為のはまた別のお話だ。
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