呼応する欲情

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 口の中にいた一物は、唇を飛び出してぶるりと跳ねるほど反り返っている。これをミノウが育てたのだと思うと誇らしくさえあるが、ノルベルトにその作業の一部始終を見ていてほしいわけではなかった。 「旦那様、……目を」  一度身を起こすと、ノルベルトの目元に触れてまぶたを下ろさせた。確かに視界を封じたことを確かめると、安心してまた作業に没頭し始める。  ミノウが熱を慰めている間、ノルベルトが必要以上にミノウ触れてくることはない。  自分が、普通の――ショートストローではない女として生まれた苗だったら、きっとノルベルトは戸惑うことなく昂った身体の処理を命じ、そして、何の疑問も抱かずにそのやわらかな体の中に精を放って熱を鎮めるのだろう。でも、それはミノウには与えることができないものだ。きっとノルベルトも男に処理されることを厭ってなるべく食事の回数を減らそうとしているのだと思う。  無いものを願っていても代わりになることはできない。だから、ミノウはせめて最中は声を殺し、男と分かる骨ばった手足をなるべく触れさせないよう気をつける。ノルベルトが美しい令嬢か何かのやわ肌の幻影を思い浮かべても、邪魔をしないように。口の中の感触だけなら男も女もたいして違いはないと信じて。 「っ、う」  一直線に快楽の出口を目指す行為はあっけなく終わりを迎える。  ぴくぴく、と腰が浮き、ソファの座面で握りしめられる拳と、脚のつけ根が緊張で強張る。それを合図にして顎を上下するスピードを早めると一気に喉の奥に生ぬるい液体があふれた。最後まで溜めたものを残さず嚥下すると、喉の奥までむせかえるような青い臭いが充満する。  ミノウはゆっくり体を離すと口の中のものを出し、口元をハンカチで拭う。ふと顔を上げると、まぶたの奥から紺色の混じった紫の瞳が現れるところだった。  この瞬間が、一番嫌いだ。  ノルベルトひとりが興奮の渦から抜けて冷静さと理性を取り戻していく間、その視線に晒され続けるのが耐えがたい。  糧を与える時間に思うところがあるのはこちらだって同じだ。  ミノウは俯いたまま丁寧とは言えない所作でハンカチをポケットの中に突っ込むと、床に手をついて、じりじりと体を焦がす内側の熱が治まるのを、ただ、待っていた。
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