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はぁと吐息し、千椛はうつむいた。
蝶の翅のような睫毛が目蓋にふさり、とかぶさり、銃身に一房、髪が流れ落ちる。ー自慢の髪なのに。あなたと同じ、髪なのに。沸き上がった激情を胸の中に殺し、千椛はシャレードの引き金を引く。
9発の8mmの鉛玉が銃口から噴き出す炎の中から飛び出す。弾薬は12番径の鹿弾。相手が50m以内ならこれで十分。9発が飛び出すとすぐに左手でマズルの下のフォアエンドを後ろに引いてすぐに前に出してしごく。空の薬莢がシャレードの右側から一筋の細い煙をあげて飛び出していき、地面に着地したと同時に甲高い声を二回上げて転がる。
死花咲の人形だろうか。穴だらけになると黒い煙をあげて消えていく。消えるとともに、それらが持っていた9mm拳銃が転がる。周囲を確認し、転がっている小銃のものへ行き、それを手に取り確認する。
「……。現の世界のモノか。確か『ベレッタCx4』。新入りの元軍艦だとかいう人造人形の桃花、杏花の双子が言ってた銃ね」
マガジンを取り出し、9mmパラベラム弾の残段数を確認すると、これを拾って相棒のプラネットに戻り、本部へ連絡した。
「現の代物を死花咲が保持している。どういうことだ?」
「現の世界の物だって?あいにく、アタシにはさっぱりだなぁ。」
プラネットの座席の背もたれによりかかり、足をコックピットへ投げ出して座るソニアの格好は、正直、品があるとは言えない。まぁ、快活な彼女らしい格好だとも取れるが。
「お疲れさん。」
千椛は乱れた髪を漉きながら、ソニアの差し出したボトルを受け取る。蓋を開けようとしたとき、見慣れないボトルの包装にしばし目を開く。
「何、これ?」
「ガラナだってさ!例の姉妹からの贈り物!ブランカルド土産のお菓子もあるんだけど、休憩しない?」
にししと笑って、ソニアはお土産と思われる箱を見せてくる。
「……あなたは相変わらずね。全く。」
どこか彫像を彷彿とさせる彼女の顔に、柔らかな微笑みが浮かんだ。彼女をこうして笑わせてくれる存在が、ソニアなのだ。
「でも休憩している暇はない。さっさと署に戻って解析ね」
音もなく浮き上がり、木々より高い高度になると直ぐに甲高い鳴き声を上げて詰所へ向かうプラネット。
バイクの様なハンドルバーを戦闘を終えたばかりの千椛が握り、ソニアは体勢を立て直し、後部で周辺の警戒を行う。
「然し何故、死花咲は現の武器を持っているのか?」
千椛がポツリと呟く。
「私達が使うフォルテマの一部には現の物を流用したものは存在する。設計図どころか構成する部品までも。勿論身の回りの生活道具だって」
この呟きに警戒を一旦止めたソニアが答える。
「確かに」
「但し、このプラネットは違うけどね」
千椛の相槌にソニアがそう付け加える。
「このシャレードも最初は現の武器を下敷きに設計、作られたとは聞いている。実際刀剣系のフォルテマなら此方の方が上手だけど、銃器なら現の人間の方が作るのは上手い」
「そもそもエストのない寂しい世界なのよ、現っていうのは。必然的に飛び道具の技術は上がるわ」
現と鏡現、基本的な構成は似ているようで大きくなればなるほど全く違う世界。
「でも現に行けるのはほんの一握りなはずよ、ソニア」
現は我々が容易に行ける世界ではない。だが鏡現の住人には現と鏡現を容易く動くものがほんの一握りいる。
「そう、その『一握り』よ、千椛」
「死花咲にもいるのね?」
「全貌こそ掴めないけど、少なくともジャンヌよりは遥かに構成する連中は多いでしょう。そうしたら一人くらいはいる筈よ。武の国と対等に戦争して、何万もの住人がいる街一つを半日で灰燼に帰する連中なのだから」
「成程、現段階でも導士を裏切った連中も沢山いる」
先日もとある導士が自導車諸共忽然と消える事態があった。そして見つかったのは
「千椛、この前の見つかったでしょう、バラバラになった自導車と骸の山。あれはその自導車のクルーと旅人のモノだったそうよ。全部集めて何とか人の形にするのに昨日の夜中まで徹夜でかかったのだから。復元班も身なり気にせず真っ赤になって疲れて眠っていたわ」
「……そうだったね、ソニア」
あの時の遣る瀬無さに苦虫を噛み潰したのを思い出した千椛。
何もかもが凄惨な現場だった。たった一日で小高い人とも自導車とも、若しくは人間と自導車のあいのこの存在だったとも分からぬ破片の山が薫風の花畑に現れていたのだから。その様子はソニアも見ていた、そして同じように感じた。だから
「……さっさと戻ってこの現製のフォルテマも解析に回そうか」
感情を殺し、千椛に言った。
「然しこの銃、本当に小銃にしては弾薬が小さいわね。例の双子さんよりもうち等のフォルテマ整備班の円が分かるんじゃないの、千椛?」
「……そういえばこのプラネット、死花咲の人形相手にぶつけたから後で恐怖のお説教だわね」
二人は別の案件の思い出したくない事まで思い出したのだった。
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