1307人が本棚に入れています
本棚に追加
「はや……と……」
切れ切れに名前を呼ぶと、隼人がやっと唇を離す。
「仕事中……ですよ?」
「ごめん。ちょっと我慢がきかなくなって。最近ずっと忙しかったし、琴莉はずっと僕の親に捕まってたしさ。琴莉は気を遣わなくていいって言っても遣っちゃうし、疲れてるだろうと思って耐えてたんだけど……」
そう言って眉尻を下げる隼人が、何だか少し可愛く見えた。
隼人の両親に会ってからというもの、何かの折には声をかけられることが多くなり、よほどのことがない限りはそれに応じていた。
いくら気を遣わなくてもいいと言われたからといって、すぐにそうできるものではない。
二人は琴莉を本当の娘のように可愛がってくれている。それでも、すぐに慣れろというのは無理な話だ。
そんな琴莉をちゃんとわかって、隼人は自分を抑えていた。
琴莉の顔に、自然と笑みが浮かぶ。
「大丈夫……。私もこうしてると、すごくホッとするから」
身体の力を抜き、身を委ねていると、急に足が床から離れた。
「きゃっ!?」
「そういう可愛いこと言われると、煽られてるのかと思うよね」
耳元で囁かれ、背中がゾクリと粟立つ。
琴莉は焦って弁解を始めた。
「煽ってませんっ!」
「無自覚か。そういうの、一番困る」
「今から打ち合わせがあるのに!」
「まだ時間があるよ」
「少しですよ!?」
「大丈夫だよ。その分、夜はめいいっぱい時間をかけるから」
「え……」
最初のコメントを投稿しよう!