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「……しばくぞ、おら」
ドスのきいた関西弁に、琴莉はビクッと身体を震わせる。小声だったので周りには聞こえていないだろうが、心配になって見渡してみると、「行ってきまーす」と社員がそそくさとその場を立ち去っていく。声は聞こえていないが、隼人が何を言われたのかは何となくわかったのだろう。
「……すっかり大阪に馴染んでるね、姉さん」
「いやぁ、肌に合うっていうの? 雰囲気も好きよ。関西弁も好き。旦那にレクチャーしてもらって、かなり上手くなったんだから!」
「だろうね」
隼人が疲れたように苦笑する。琴莉は先ほどから何度もまばたきしながら二人のやり取りを眺めていた。
なかなか強烈なキャラクターだな、と思う。隼人の両親にも会ったが、この両親も印象的だった。二人とも穏やかで優しい笑みを湛え、琴莉を快く迎えてくれたのだが……。
『琴莉さん、お買い物に行かない? 久しぶりに女同士でお洋服の選びっこしたいわぁ』
『いやいや、琴莉さん、お腹がすいているでしょう? 僕がご馳走をふるまうよ。さ、こっちへいらっしゃい』
母親に右腕を掴まれ、父親に左腕を掴まれ、間にいた琴莉は困った顔でオロオロするばかりだった。すぐに隼人の手によって助け出されたが、優しげな笑みの裏にある、その押しの強さに呆然としてしまったのだ。
しかし、目の前の彼女は更に上をいっていた。
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