1305人が本棚に入れています
本棚に追加
「は、隼人さんっ!」
「隼人!」
隼人は彩の頭を片手でガシリと掴んでいたのだ。そのせいで彩の綺麗に整えられた髪がグシャグシャになっている。
「だから、琴莉は僕のだって言ってるでしょ? そう何度も抱きつかないでもらいたいんだけど」
「まだ抱きついてないっ!」
「阻止したんだよっ!」
琴莉はキョロキョロと辺りを見渡し、ペコペコと頭を下げる。営業部の人たちは、生暖かい目でこちらを見ていた。彼らの様子を見ていると、この姉弟の関係はどうやら周知されているらしい。
本社の人間もきっと知っているのだろうが、琴莉が『KIRISHIMA』に入社してから彩が本社に立ち寄ったことはなかったので、琴莉が知らなかっただけなのだろう。
「男の嫉妬心ってやぁねー。琴莉ちゃん、ほんっとこんな男でいいの!? あ、でも二人が結婚しなきゃ、琴莉ちゃんが私の妹にならないし……チッ」
チッ……この美貌で舌打ちをされると、妙に迫力がある。
「もう行くよ。顔出せってうるさいから顔出したけど、もう出さない!」
「いいわよ、別に。琴莉ちゃんは顔出してね。待ってるから!」
「え……あ……」
琴莉が返事をする前に、隼人はさっさと営業部のフロアを後にする。琴莉は半ば拉致されるように、強引に連れ出された。
最初のコメントを投稿しよう!