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支社を出て、駐車場まで歩いていく途中、琴莉は隼人の顔を見上げて言った。
「お姉さん、面白い方ですね」
すると、隼人が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「両親もそうだけど、姉もキャラが濃いでしょ? ほんとごめん。ビックリしたよね」
「まぁ……ビックリはしましたけど」
琴莉は初めて隼人の両親と顔合わせした時のことを思い出す。
隼人から「一般家庭と何ら変わらないから大丈夫」と散々言われていたにも拘らず、琴莉は人生でこれ以上ないほど、緊張していた。
いくら隼人が普通だといったところで、こればかりは信用できない。桐島というだけで、すでに普通ではないのだから。
しかし──。
「あなたっ、あなたっ! 琴莉さんよ! 可愛らしいお嬢さんねぇ!」
「本当だね。僕も腕のふるい甲斐があるよ」
「私、琴莉さんとお買い物がしたいわ」
「ダメだよ。まずは僕の料理を堪能してもらわないと」
会った瞬間、琴莉を間にしてあーだこーだと話は尽きない。物腰柔らかく、上品そうだというのに、二人とも何気にお互い譲らない。琴莉は二人の顔を交互に見ながらオロオロしていた。
そして、琴莉がやっと二人に挨拶ができたのは、会ってからすでに一時間は経過した後だった。
琴莉が桐島の家にいる時は始終こんな調子で、常に琴莉の取り合いが繰り広げられた。
見兼ねて隼人が止めようとするが、てんで相手にならない。父親は屁理屈まで駆使して隼人の言い分を論破し、母親は情に訴える。
さすがの隼人も両親にはそれほど強く出られないようで、全く歯が立たない。帰る頃には、精根尽き果てたような顔をしていた隼人が心配になったほどだ。
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