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関西支社を後にし、二人は一旦ホテルの部屋へ戻る。イベントの最終打ち合わせまでは、まだ少し時間があった。
「これで『さら』って読むんだ。珍しいなぁ……」
彩から貰った名刺を眺め、琴莉は呟く。ほとんどの人間は、『あや』と読んでしまうだろう。
琴莉はベッドに腰掛け、コロンと横になる。仕事でもバタバタしていたし、隼人の両親に会ったりと何気に神経を使っていたようで、このところ眠りが浅かった。こうやってのんびりしていると、うっかり眠ってしまいそうだ。
瞼が重く、瞳が閉じられようとしていたその時、コンコンとノックの音がした。琴莉は慌てて起き上がり、ドアに駆け寄る。
「はい」
「琴莉、僕」
隼人だ。琴莉はドアを開けた。
同棲をしているくらいなのだから部屋も同じでよさそうなものだが、仕事は仕事と割り切っていつも別にしている。
「どうしたんですか?」
隼人は琴莉の問いに答えず、そのまま中に入ってきた。
「隼人さ……」
部屋に入った途端、いきなり腰を抱き寄せられ、驚いて見上げると、唇が降ってくる。
「ん…っ」
口付けが深くなるにつれ、二人の距離もほとんどないほどに縮まってゆく。唇が離れたほんの一瞬の隙に琴莉は離れようとするが、あっという間に再び絡めとられてしまった。
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