第一話「見つけるの禁止」

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聞いたこともない高い音域の声が部屋に瞬間響きわたった。 同時に緊張が走った。“えっ、なに?”こころの声を僕はもらす。 この部屋どころか、この家には、僕しかいない。僕しか住んでいるはずが ないのだ。 思わず息をのんでしまう、投げたあとの体制のまま動けず、声のしたよう な方向(スピーカー付近)と。その場からは見えないダーツの影を僕は見え ないのに見ようとする。 「……。」 「……。」 「…………。」  長いのか短いのか、沈黙が部屋に横たわる。 僕は息をのんだまま、脳裏に先ほど聞こえたはずの声のような響きを、 その間、何度も反復していた。 「誰かいるのか!出て来い!」  わざと、強い口調で言ってみた。 意識は、スピーカー付近だけじゃなく、何となく押入れや背中側の寝室。 とにかく目に見える範囲、すべてを包みこみながら口にした。 コチコチコチ…。  いっそう、静まりかえった部屋に、壁掛け時計の無機質な音が、やた ら耳障りに感じる。 一度、深く呼吸をして、僕は意を決する。すり足で音をたてぬよう、 一番気になる場所を覗きこむ。そうだ、スピーカーの奥側だ。 一歩ずつ近づいていく、僕は首を可動域の限界までひねりながら、徐々 にスピーカーの見えなかった側面を視界にとらえていく。  正面に来たところで、カッと両目を見開いた。 が、そこには何もない、少し厚めのホコリくらいだ。 よく見ると奥の方にダーツの後ろの羽部分(フライト)が見えた。 “あんな奥まで転がったのか”そう思いながら、指先をフライトに伸ば す。端をようやくつかんだとき、小さな火花が走った。 バチチチチチッッ。 「うおっ!?」  思わずつかみかけたフライトの端を放した。それと同時に、指先に ふれた火花から電撃が微かに突きぬける。 「あっつ…!?」  “スピーカーの配線でも傷つけたか?”火花の理由を一瞬、浮かべ ながらコンポのコンセント付近をイメージしようとした。 しかし、次の瞬間、ダーツのフライトの一部がスピーカーの奥で揺れ 動いた。  “違う、何か、いる…”とっさに、そばにあったタオルを手に軽く 巻くと、一気にフライトをつかんだ。 今度は火花も意識している分、引き抜く速度も早かった。 ただ、全身に力を集中させていた分、ダーツ一本の重さとは思えない モノを引き抜いたことに気づくのが遅れた。
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