第一話「見つけるの禁止」

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スピーカーの奥から引き出したダーツの先で、揺れるというか… ぶら下がるというか…。 それが、何かだと、そのときの僕は、わからなかった。 その、ダーツの先端で揺れている。人形のような人間のような、その 揺れている“何か”に、思わず僕は言った。   「…おまえは、一体、何だ?」  その、ダーツの先端で揺れている人形のような“何か”は、明らか に生き物の反応をしていた。 顔をしかめ、よく見ると汗を流し、聞き取れるか聞き取れないながら も。声をあげていた。 ダーツの先端のティップといわれる針の部分が、小さな“何か”の、 左肩から脇腹付近の服を貫き、ケガをしているようだった。  僕は、おそるおそる顔をさらに近づけ、小さな“何か”に声をかけ る。  「おい。おまえ、言葉、わかるよな?おまえは、一体、何だ?」 もう一度、確かめようと顔をさらに近づけた瞬間。小さな奴がギュッ と、閉じていた目と口を開けた。  「うるさいぃぃっ!死ねぇぇぇ」 先ほどスピーカーの奥で見た火花が飛ぶ、僕の目の前で弾ける。 「うおおっっ!?」 僕は、のげぞりながら、ダーツと小さな奴を地面に落とす。 こいつの仕業だったのか。  「ふぎゃっ」 ダーツと共に床に落ちた小さな奴は、うめき声をあげる。  右手と右足をジタバタさせながら逃げようとするが。うまく、動け ないらしい。 僕は対応に困ったが、本能のおもむくままに、殺虫スプレーを手にし て、小さな奴に向けて構えながら声をかけた。  「おい、お前。いい加減にしろ、スプレーくらわすぞ!(効くかは、 謎だけども)」 小さな奴は、片手に小さな火花を散らしながら抵抗を試みている。 “その火花は嫌だ”口にこそ出さなかったが。同時に思いついた言葉 を口にしてみた。  「おい、お前。火花は出すな、それにスプレーされたら、どうなる のか?わかってるだろうな?」  「ぎいっ!」 小さな奴は、往生際悪く、僕の方に手をかざす。が、火花を出さなく なった。おそらく理解力はあるようだ。 「そうだ。僕がスプレーすると火花に引火して、燃えるのは、お前 の方だぞ」  そう言ってスプレーを構えると、小さな奴は、やがて僕に向けてい た右手を力なく降ろした。 そして、静かにつぶやきながら意識を失った。  「…もう、いい…どうせ…」  そのとき、僕は、出会うはずのない者と出会ってしまった現実を思 い知った。 静かに、うつぶせになったままの小さな奴を見下ろしながら…。
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