第二話「見つかるの禁止」

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「大丈夫かい?オラン」  母が背中をさすりながら、ボクの瞳を見つめていた。 父は相変わらず仁王立ちで、ボクを見下ろしているのだけど。その目は 怒りの色よりも、むしろ悲しみの色が濃くうつっていた。 そのあとも、ずいぶん長い間、父に巨人のおそろしさを教えられた。 説教というよりも、諭すように。 そして、その日から心が疲れきるほど、両親はボクのことを試すように “狩り”について、わざと確認することが何度とあった。  “狩り”を覚えるにつれて、ボクは意識的に父の行動を反復し、決し て、それを破るような行動や考えを言わなくなった。 巨人が活動している日中は、とにかく動かない。日中に何か不足の事態 が起きても、夜の“狩り”にて、すべての帳尻を合わせるように行動す るし、余計な口はたたかない。  もう、あんな思いをするのはご免だ。両親は、ボクが両親の望むよう な行動さえしていれば、基本的に何の問題もなく、やさしいはずだ。 “狩り”においての父の能力は、万能だった。 とくに電撃の能力は、強弱によって、暗い場所を照らしたり、狩り場で 出くわすネズミや虫などの目眩ましに使えたり、そのままでは動かない ものを、一定時間なら動かすこともできた。  父いわく「思いきり使えば、相手によっては気絶させる程度のことは できる」 そう言っていたが、電撃の能力は使いすぎると自分の体が長い間動かな くなる弱点もあるらしく、あえて、やらないのだと言っていた。  母は、父ほどの力ではなかったが、電撃でコンロに火をつけたりして、 得意の家事に役立てていた。  そんな両親の子供なのに、ボクといえば、電撃の能力も低く、何度練 習しても父ほどの力を出せることもなかった。 もちろん、母にも及ばない。せいぜい、ピリッとさせる程度だった。  落ちこむボクに父は、いつも。 「狩りの成功は、電撃の能力の強弱で決まるものじゃない」 そう言って背中を叩いてくれていた。 それでも、ボクは両親がうらやましかった。 両親くらいの力が備わって いれば、ビクシーたちにバカにされることも、いじめられてパシらされ ることも、今、こんな風に巨人に見つかってしまうこともなかった。  今、オランは、左肩から脇にかけて、じんじんと響いてくる痛みに耐 えながら、無謀にも巨人に闘いを挑んでいた。 巨人に見つかれば殺されてしまう、捕まったら何されるかわからない。 せめて、頼りない自分の電撃でも、逃げるためのキッカケに、姿を見ら れないためのキッカケになればいいのに…。  オランは、全身の痛みに意識が遠のいてゆく自分を感じながら、最後 につぶやいた。 「…もう、いい、どうせ…」 “…どうせ、ボクは殺されて、もしかしたら…仲間も殺される…”  その瞬間、両親の顔が浮かび、ビクシー達の顔が浮かんだ。 “ちくしょう、ちくしょう…ビクシーが捕まれば良かったのに”
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