第4話「逃がしたい者・逃げたい者・狩りたい者」

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第4話「逃がしたい者・逃げたい者・狩りたい者」

オランは思わず息をのんだ。 一瞬、元のように倒れてしまおうか?と、よぎらせたが、今さら遅い。 “いつから見られてた?”不安と恐怖は、ますます大きくなってくる。  オランは覚悟を決めたように、首をゆっくりと巨人の方に向けた。 まばたきもできない、巨人の一挙手一投足が自分の命とりになると、 本能が警戒している。  巨人は、オランと目が合っていると確信すると、少しずつ近づいて きた。 箱の手前で立ち止まり、距離をはかるようにオランを覗きこんでくる。 電撃は、まだ出せるだろうか?いや多分、無理だ…何よりまともに立っ ていられるのもやっとだ。 去勢を張るしか術がなくなった自分が情けない。オランは、そう思いな がらも、身構えるふりをするしかなかった。  “ボクにふれるな。ボクに近づくな、殺すぞ。” 火花を出せないのが辛い。けど、出せると思って向き合うしかない。  「…なぁ、おまえ、人間の言葉、わかるんだよな?」 思わぬ巨人の言葉が、天井から降ってくるように聞こえてくる。 どう返事したらいい?理解できると、知られてしまったら、ボクや仲間 は危なくのるだろうか。  返事に迷った。身構えたまま、警戒もとけない。 考えをよぎらせるオランを見据えたまま、巨人は、さらに声をかけてくる。  「わかる気がするから、このまま話すことにするぞ?僕は、おまえが 危害を加えなければ、攻撃するつもりもないし。むしろ、ここから消え てほしい。」  「!?…ほ・本当か?」 一方的に話かけてくる巨人に、その内容に、オランは思わず口をきいて しまった。 「やっぱり!僕たちの言葉が理解できるうえに、話せるんだな。」 「……………ああ。」  オランは、ひどく後悔した。やっぱりボクはダメな奴だ。 それにしても、今、巨人が言った言葉は本当だろうか?本当にボクを解放 してくれるのか? 巨人は、目の前で膝を落とした。オランと同じ目線になり、再び口を開く。  「本当だよ。僕はとにかく、おまえが僕に変な危害さえ加えようとしな ければ、早くここからいなくなってほしい。それが本当の本当に約束でき るなら。僕は、おまえのことを何も知りたくないし、今、起きていること だって忘れてしまいたい。」  巨人の声色、表情に嘘を言っているようなものは感じない。 しかし、オランの頭の中では、やはり、幼い頃から両親に植えつけられた “巨人は自分たちを襲う”“巨人に見つかってはいけない”の言葉が根深 くあり。 あの物語のように、今、自分は騙されているのではないか? そんな感覚が、巨人の意外な発言そのものをくもらせていた。 それに……オランは、考えもしなかったことを思い出した。  万が一、万が一、無事に帰れたとしてもだ。 オランの脳裏にビクシーたちの顔が浮かんだ。 無事に戻れることがあったとしても、ビクシーたちは、何も狩ってこれな かったボクを、またいじめるだろう。 たとえ、巨人と出会ったが、間一髪、逃げてきた。 そう自慢しても、決して信じないだろう。つまるところ、ボクは、ボクと いう存在は、何処にいようが同じなんじゃないのか?  「…万が一、おまえらが、巨人が、ボクを本当に逃がしたところで。ボ クは、助かった実感はない…。」 余計な言葉が無意識に口をついた。
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