選ばれない女

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呆然としたままどれくらい時間がたっただろうか。 震える足を奮い立たせ、私はなんとか一階に戻ると、カウンターにいた司書に今閉架書庫に来たのは誰だったのか聞いた。 司書は閉架書庫の利用簿を見て「いいえ、誰もいませんが」と言った。 私は驚いた。 「本を探していたら、急に電気が消えてっ、誰かが、……私をっ」 「何かされたんですか?」 私の怯え方を見て司書は心配そうに尋ねた。 「いえ……」 怪我をしたわけではなかった。 本は投げつけたのだろうが体に当たったわけではなく、大量に落とされた本棚の本も体に落とされたわけでもなかった。 「おどかされたというか」 「おどかされた?」 ……中途半端だ。 たしかに相手は私を憎んでいた。あの状況なら、なにか傷つけることだってできたはずだ。 話していると出来事の輪郭がはっきりしていく。ひどく中途半端な印象を受けた。 帰り道は身の回りに気をつけて帰った。その日は特に何も起こらなかったが、次の日、アパートに私宛の一通の手紙が速達で届いた。 差出人は、神林早紀という初めて目にする名前だった。 私は封筒を開き、手紙に目を通した。
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