13人が本棚に入れています
本棚に追加
呆然としたままどれくらい時間がたっただろうか。
震える足を奮い立たせ、私はなんとか一階に戻ると、カウンターにいた司書に今閉架書庫に来たのは誰だったのか聞いた。
司書は閉架書庫の利用簿を見て「いいえ、誰もいませんが」と言った。
私は驚いた。
「本を探していたら、急に電気が消えてっ、誰かが、……私をっ」
「何かされたんですか?」
私の怯え方を見て司書は心配そうに尋ねた。
「いえ……」
怪我をしたわけではなかった。
本は投げつけたのだろうが体に当たったわけではなく、大量に落とされた本棚の本も体に落とされたわけでもなかった。
「おどかされたというか」
「おどかされた?」
……中途半端だ。
たしかに相手は私を憎んでいた。あの状況なら、なにか傷つけることだってできたはずだ。
話していると出来事の輪郭がはっきりしていく。ひどく中途半端な印象を受けた。
帰り道は身の回りに気をつけて帰った。その日は特に何も起こらなかったが、次の日、アパートに私宛の一通の手紙が速達で届いた。
差出人は、神林早紀という初めて目にする名前だった。
私は封筒を開き、手紙に目を通した。
最初のコメントを投稿しよう!