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……足りない。
圧倒的に覚悟が足りない。
不倫という人に祝福されない道を選ぶ人間がとる行動として、圧倒的に覚悟が足りない。
私の腹の中で塊が動いた。今、そこにいるのは胎児だ。
それを初めて感じたのは、あの閉架書庫での出来事のときだった。あの時、存在の危機を感じたに違いない。存在が危ぶまれたとき、自分の存在を誇示しようとする。
そして今また危機に瀕している。何故なら、親は妻子ある男性だ。
私はゴミ箱に突っ込んだ手紙を再び拾い出した。キッチンに向かうとガスコンロの火をつけ、手紙の端に火を移した。
なんという因果なのだろう。しかし、私はこの女性のようにはならない。
閉架書庫で転倒したあとも、この子は流れなかった。私は必ずこの子の存在を守ってみせる。そして私自身の存在も。ありがたいことに反面教師としてこの女性が手本を見せてくれた。後悔などしていない。
私が、私の思う幸せを手に入れることが、この女性への返信だ。
オレンジ色の炎が一瞬にして紙全体に燃え広がった。
粗方燃えたところでシンクに放り込んだ。少しの切れ端を残し、手紙は黒い燃えカスになった。
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