予想外の日曜日

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予想外の日曜日

日曜の朝 母と2人で朝食 父はゴルフへ行ったらしい 「あなたのカレシ 見たわ」 突然 母はそう言った 「昨日 仕事で某高級住宅街まで行ったのよ」 母は某外車メーカーの営業をしている 「学校へ行く とか言って 大邸宅へ出入りするとは」 どうやら秋穂といるところを見られたらしい 「東山夏樹の息子でしょ あなたのカレシ」 私はウロタエ 生つばを飲み込んだ 「あなどれないわね あなたにしては上デキ」 「やめて そういう下品な言い方」 「失礼しました 東山美月さま・・・フフフッ」 私は不快になり 部屋に引き上げた 親が 秋穂をカレシと思ってくれた方が  好都合かも その方が 無難にやり過ごせる  という考えが頭に浮かぶ 自分の心の不条理さが浮き彫りになる 冬香は 目が見えない  それは病気の結果で 冬香に 何一つ 落ち度はない それなのに私は  母が秋穂をカレシと誤解していることに 心の底で 安心したのだ 自分が許せない  こんな気弱な神経で 本当に  冬香を裏切らないと言い切れるのか 「美月 これから私 某高級住宅街まで行くの」 母が階下で 私を誘う 「乗せて行こうか? カレシの家まで」 私は迷ったけれど  乗せてもらうことにした 秋穂に いろいろ話を聞きたいと思った 彼のスマホの番号やメアドを  聞いておけばよかった 母は迷いもなく 私を東山家の前で下ろし  すぐ 車を走らせて消えた 私は 門の外にあるインターホンを押した カメラで私を確認したのか  私が何も言わないうちに 門は開かれ 玄関まで行くと  秋穂が出迎えてくれた 「ありがとう よく来てくれたね」 彼は嬉しそうに瞳を輝かせた 秋穂の部屋に入る 母の『勘違い』を伝える 「それ 勘違いじゃなく 真実にしてもいいよ」 私は 冬香を想い  急に悲しくなり 涙がこぼれる 使用人がコーヒーを運んで来て  私の涙を見ると あわてて部屋を出る 「連絡先 交換しよう」 秋穂から言われ 連絡先を交換する 「9月に○○記念バイオリン・コンクールがある」 秋穂はバイオリンを持ち出し  準備しながら言った 「美月に ピアノ伴奏 お願いしたいんだ」 「冬香に頼めばいいじゃない?」 「兄さんのピアノは 歌い過ぎるんだ」 「歌い過ぎる・・・」 「わかるだろう? それに・・・」 「それに?」 「兄さんが新しい曲を覚えるのは大変なんだ」 「ああ 確かに難しいかも・・・でも・・・」 「兄さんには 僕から説明する」 「音楽やめるんじゃないの? 秋穂」 「このコンクールで優勝しなければ やめる」 「えっ? そんな重大なことに私 関わりたくない」 「美月と 挑戦したいんだ」 「冬香の気持ち 考えると悲しい」 「なぜ? これは仕事だ 単なる仕事」 「仕事?」 「そうだ 割り切るんだ ギャラはいくらでも出す」 「ギャラ・・・・」 「そう・・・他にも頼みたい仕事 あるんだ」 「他にも?」 「春斗の伴奏 春斗はまもなくデビューする」 「デビュー?」 「まあデビューって言っても『黒薔薇』でね」 「それこそ冬香に頼めば?」 「春斗はジャズだから・・・兄さんには無理だ」 「ジャズなんて 私も弾いたことないわ」 「大丈夫 美月なら弾ける 僕にはわかる」 「私 ピアノを褒められたこと一度もないわよ」 「今まではだろう? 美月の才能は僕が開花させる」 挑戦してみたい気持ちが  胸の底でうずく 秋穂は真顔で言った 「冬香と美月が より深く愛し合うためにも・・・」 「冬香と?」 「そうだ 冬香は最高の審査員 最高の観客だ」 窓の外は雨 冬香は今ごろ 何してるのだろう 「今日は 冬香のところに行かないの?」 「行かない 日曜は 兄さんに会えないよ」 「どうして? 家から外に出ないんじゃないの?」 「出ないけど 家で仕事してるんだ」 「家で?」 「そう どんな仕事か 知りたい?」 「・・・いえ・・・知らない方がいいかも」 「美月・・・ああ・・・」 秋穂はバイオリンを弾き始めた モンティの『チャルダッシュ』 その やるせなさ 鋭さ  何か むき出しになった神経の束で バイオリンを逆撫でるような痛々しさ 私の心境が  そのまま映し出されているようで フレーズ毎に 私は悶える 「この曲 コンクールで弾くつもりだ」 途中で 秋穂はそう言った できるだろうか こんな難しい曲の伴奏
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