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告白
その日 ピアノは聞かずに帰った
夜 ブラジャーをはずし
自分で自分の乳房を揉んでみた
冬香を想うと 気持ちが高まった
『ああ・・・冬香・・・いけないわ・・・』
頭の中でセリフを言いいながら乳房を揉む
ダメだ 私は危ない状態だ
どうなってしまうだろう
歯を磨きながら 唇を観察する
冬香の 柔らかな唇の感触がよみがえる
このまま突っ走ると 夏までに
私は処女さえ失うだろう
いつのまにか母親が 鏡を覗く私を
横から盗み見ていた
「やっぱり 彼氏ができたのね・・・キスしたんでしょ?」
「うん 初キッス・・・」
「ふふふっ・・・いい顔してるわ」
「ママは何歳の時 初キッスした?」
「小学5年の時」
「早っ!」
「しょうがないわ 大好きな子がいたの」
「じゃ 初エッチも・・・小学生の時?」
「それは中学生になってからよ」
「スゲッ・・・中学生の時なんだ!私まだ処女よ」
「知ってるわ 今日が初キッスなんでしょ」
「私・・・今の彼にも・・・恋してるかわかんないわ」
「じゃ 無理することない 焦ることないわ」
「私は焦ってないけど彼はきっと・・・」
「女は自分の都合を最優先しなきゃ 男はいつも女が欲しい」
「そうなんだ ありがと ママ」
面倒っちいけど
母をダマし続けるのは不可能そうなので
とりあえず最低限の報告をしておこう
次の日の放課後
私は迷わず『黒薔薇』に行った
ピアノが聞こえた
ショパン『ノクターン第一番』
美しく 切なく 悲しかった
私は静かに冬香の後ろに立ち
曲が終わるのを待った
曲の途中で 彼は指を止め立ち上がった
手探りで私を確認し そっと抱き寄せ
「来てくれて ありがとう」
と言った
冬香の腕の中で 私はドキドキしながら
うっとりした
ただ これだけでいい このままでいい
私は 長い時間 黙って彼の腕の中で
目を閉じていた
彼の鼓動が
私の耳のすぐそばで鳴り響いていた
「もう死んでしまおうかと思ってた・・・」
冬香はひとり言みたいに つぶやいた
「美月に出会うまで 一分一分が 寂しかった」
悲しい告白だった
重い告白だった
それなのに なぜか嬉しかった
私は自分から
冬香の背中に手を回し 彼を抱きしめた
あふれた涙を 彼のシャツに押し当てた
「キスしてもいいかな?」
と聞かれ
私は背伸びして 冬香の頭を引き寄せ
唇を合わせた
彼は静かな優しいキッスをして
もう一度キッスして
何度も何度も ふんわりした優しいキッスをして
やっぱり ディープなキッスになった
冬香の腕が私をしっかり支えていても
私は 彼の腕の中で
全身が溶けたアイスみたいに
甘く トロトロに崩れ落ちそうだった
どのくらいの時が流れただろう
気がつけば 部屋はかなり暗くなっていた
「今日はピアノを聴かせて」
冬香はベートーヴェンの『悲愴』を弾く
不安のない素晴らしい演奏だ
彼の音楽に 全神経ですがりつく
音の一つ一つを 脊髄に流し込むように
繊細な息遣いを 自分の肺胞でなぞるように
その間合いの完璧さ
いや 私には完璧と感じる 絶妙な自然さ
そのアクセントの心地よさ
ここぞという音たちが キビキビと立っている
そのメロディーの清らかさ
透明な湧水があふれ 水没していく自分の魂
彼は こんなところにいて いいのか
彼を 独り占めして いいのか
彼は 冬香は 本当に素晴らしいピアニストだ
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