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知られていた秘密
次の朝 高校の玄関で
知らない男子に手紙を渡された
トイレで開封してみる
毎日 あなたを見ています
あなたの秘密 知っています
僕は あなたが好きです
僕は あなたが心配です
どうぞ 僕の話を聞いてください
今日の放課後『黒薔薇』に行かず
僕と 会ってください
僕は 図書室の東の角にある
美術全集や写真が並んでいる棚の前で
ゴッホの画集を開いています
16時から16時30分まで待っています
恐ろしい手紙だ
私が『黒薔薇』で冬香と会っていることを
知っているらしい
どうしよう
この男子を無視するのは怖い
だけど会うのも怖い
せっかく私は
冬香と二人きちんと生きるための道を
見出しかけたばかりなのに
一日中
頭の中は不安と疑惑でズキズキする
昼休み あまりに頭が重く保健室へ行く
鎮痛剤をもらう 効く訳ない
気休めにもならず 苦しむ
放課後 私は図書室へ行く
行くしかないのだ
知られているのだ すべてを
指定された場所で
ゴッホの画集を開いていた その男子は
私を見ると すぐ画集を棚に戻して
黙って私の前に立つ
「僕は東山アキホ 季節の秋に稲穂の穂でアキホ」
「アキホ・・・秋に稲穂の穂・・・」
「そうです 頭のいいあなたには わかるでしょう?」
「冬香の・・・・」
「そう 冬香は 僕の兄です」
「いつから・・・私を・・・」
「初めて あなたが階段を上った時から」
「ずっと見てたの?」
「ごめんなさい ずっと見てました」
言葉が出なかった
私は倒れそうだった
本棚と本棚の薄暗い隙間から
明るい空間へ避難したかった けれど
秋穂は私の髪の毛を数本指でつまみ
「あなたは 本気で兄を愛せますか?」
と にらむように質問した
「兄は あなたに裏切られたら死ぬと思う」
そう話す秋穂の瞳は涙でいっぱいだった
「だから だけど 僕はあなたも心配だ 美月」
「お願い 髪を放して」
「ダメだ もう兄に会うな」
「私 冬香を裏切らない」
「兄がどんな仕事してるか 知らないからだ」
「どんな仕事でも 気にしないわ」
「知りたくないのか? 兄がどんな人間か」
「あなたの言葉で説明してほしくない」
秋穂は私の髪を放した
私は走って その場を離れ
私は走って『黒薔薇』へ行った
冬香は また『熱情』を奏でていた
私はピアノを弾く彼の足元に座り込み
彼の膝に顔をうずめた
「どうしたの? 何かあった?」
「会いたかった」
私は秋穂のことは言わなかった
どこかで秋穂は見ているに違いない
私は立ち上がり 冬香の手を引いて
二人でソファーに腰かけた
「昨日の答え 考えついた?」
「美月が満足する答えかどうか・・・」
「教えて 冬香の答え」
「二人が きちんと生きるために 僕らは・・・」
「僕らは?どうすればいい?」
「止められない気持ちを完全燃焼する」
「完全燃焼!素敵だわ」
私は冬香の答えに恋した
予期しない ときめく答え
「完全燃焼って どうするの?」
「ゆっくりでいい すべて」
「わかった 冬香のリズムに合わせる」
私たちは今日も ゆっくりキスを交わした
冬香となら 24時間でもキスしたい
冬香となら 毎日キスしたい
たとえ秋穂がどこかで見ていても
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