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入院する際の手続きを済ましてから、母は一度家に戻って、僕が入院する為の必要最低限の日常品を持ってくるという。
果たして何日入院するだろうか、生きてこの病院から出れるのだろうか。
そんなマイナスな思考しかできない。
母親が戻って来る間、僕は助手の看護師さんに病院の案内、入院の際の確認などを受ける事になった。
「松坂良くん、で合ってるかな?」
俯き座っていると、突然に名前を呼ばれて声の方を向く。
目の前には、看護師さんが無関心に僕の名を呼んでいたんだ。
別に今の僕の心境に共感してくれなんて思ってはいないけれど。
仕事である以上の存在に看護されると思うと、なんだか心が竦む。
それに、看護師さんの顔をよく見れば、まだ二十代くらいだろう。かと言って、新人感はあまり感じられず、看護は慣れているように見える。
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくね、じゃあ早速病室に案内しちゃうね」
少し微笑みながら背を向けて歩き出した。
僕も看護師さんの後ろをついて歩いた。
「エレベーターに乗りますねー」
「あ、はい」
別にいらない案内だけれど、一応返事ぐらいはしよう。
エレベーターに乗った後、看護さんはこの病院の最上階である6階ボタンを押した。
この時僕は、また変に重い事を思い出してしまった。
最上階、見晴らしのいい窓=死が近い。
誰からか聞いたことがある。不治の病とか、もうじき亡くなる人は景色のいい場所に移動させるらしい。
普段なら、そんなデタラメ的な話は信じないのだが、今は冷静な判断ができない。
エレベーターが動き出して、上に上がるにつれてなんだか死が近くなってくる気がする。本当に僕は大丈夫なのだろうか。
まだまだ、マイナス思考になりつつある意識をギリギリなところで保つ。
ピンポーン[ 4階です、ドアが開きます。]
「ジャンプ!」
エレベーターのドアが開いた瞬間に、勢いよくエレベーター内に、言葉どうりに飛んで入ってきた少女。年は僕とあまり変わらなそうだ。
僕は虚にも、その楽しそうな少女を見ていた。
「ちょっと!花ちゃん!エレベーターじゃ暴れないっていつも言ってるじゃん」
「ごめんなさいー」
「…」
2人で話を始めたが、そこにいた僕も目が合う。
「お、少年ここで何をしておる?」
「花ちゃん、静かにね」
「はーい」
助かる。看護さんのおかげで、このめんどくさい少女と話さなくてよかった。
今は誰とも話したくない。
ましてや、人の気も知らない少女なんてどうでもいい。
「ドア、閉まるよー」
「はーい」
看護さんと少女言葉のキャッチボールを聞いて、多分この二人は少し長く関わっているように思えた。と言うよりも、ちゃん付けで名前を呼んでいる時点でそうなんだろう。
それより、この少女は何階に行く気なんだろう。
どこのボタンも押さずに、ただ看護師さんに言われた通りに静かに立っている。
そうこう考えていると、エレベーターはとっくに6階についてしまった。
「ジャンプ!」
「こーらぁー」
こいつも6階かよ!心の中で文句がでた。
看護さんに注意された少女は、あはははと笑いながら、走って僕たちとは反対方向に走って行った。
全くめんどくさそうな人だ。今の僕のテンションでは関わるのもままならないだろう。
もしも、飛び込んできたのが男で同じくらいの年齢なら仲良くなれるかもしれなかったのに。
そんな文句を心の中で湧かせている。
「ごめんね、あの子はね新島花香ちゃん、同じ6階に病室があるから仲良くしてあげてね」
そう看護さんに言われたけれど、僕にとって賛成の意味もなく否定の意味もない頷くという優れた術で対処した。
廊下を少し歩いて行くと、僕の名前である
[松坂 良]と書かれている病室が目に入った。
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