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「無駄足だったか……」
思わずグチが出た。撮影が、一か所からだと、死角も多い。俺は公園の外周沿いを、歩いて北側に移動する。北側は花が多く、高い木が少ない。俺が隠れれる場所が少ないのだ。
荒い呼吸で、汗が引かないまま、ダメもとで再びハンディカムの、液晶モニター見れば……、いたっ! 男女のカップルだ。ほほ笑みながらベンチに腰かけ、寄り添って座っている。二人とも二十歳は越しているようだ。
久しぶりの出来事に興奮しつつ、ハンディカムを最大倍率に上げた。そして、二人を撮影する。ズームにした映像が、手振れで一瞬乱れる。
「九月一日、二十一時四十三分、場所はきょうせい公園。撮影者は佐藤」
俺は小声で、ゆっくり、かみしめるように言えた。やらせでも、加工でもなく、ホンモノの映像だと分ってもらうためには、俺の声も必要なのだ。その間に、女は男に体を密着させながら、夜空を見上げていた。耳にはめた、イヤホン越しに女の声が聴こえる。
「満月が綺麗。まるで、あたしみたい、ふふっ」
うぬぼれの強い女だ。だが、これから先のことを考えるとゾクッとする。男は女をうっとり眺め、しなやかな体に伸ばそうとしている。気がつくとカメラはそのままで、俺も夜空を見上げてしまう。
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